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松井秀太郎トランペット奏者

“文化の継承者”として次世代を担う気鋭のアーティストたちが登場し、それぞれの文化芸術に掛ける情熱や未来について語る「Bunka Baton」。今回は、ジャズ、クラシック、ポップスと幅広いフィールドで活躍する新世代トランペット奏者、松井秀太郎さんをクローズアップします。

高校はクラシック、大学ではジャズを学ぶ

2023年、アルバム『STEPS OF THE BLUE』でデビュー。小曽根真やエリック・ミヤシロら錚々たるジャズ・ミュージシャンとの共演で注目を集めてきたこともあり、軸足はジャズにあるのかと思いきや、「軸足? うーん、特定のジャンルというより、トランペットかもしれません」と松井さん。ソロ、バンド、吹奏楽、オーケストラ……さまざまな音楽に登場するトランペットだけに、その可能性は無限に広がります。

「トランペットとの出会いは、小学校のクラブ活動で金管バンドに入ったときでした。運動会でマーチを演奏したりしましたが、毎日練習していたわけでもなかったので、中学で吹奏楽部に入ってからが本格的なスタートだったと思います。
いわゆるコンクール強豪校で、クラシックのオーケストラ作品もたくさん演奏しました。なかでもチャイコフスキーが大好きで、ヴァイオリン協奏曲のトランペットが吹きたくて音楽高校受験を決めたぐらいです」

高校は国立音楽大学附属高等学校に進学。クラシックを学びたいというよりも、トランペットという楽器について専門的に学びたいという気持ちが強かったといいます。

「まわりのみんなが音楽をやっている環境で学びたいという希望もありました。それまで自分は音楽しかやってこなかったのに、音楽家を志す友だちがひとりもいなかったので、テレビで音楽学校のドキュメンタリーを見たりして憧れていたんです。国立はのびのびした雰囲気で、楽しかったですね。バンドも吹奏楽もオーケストラもやりました。ほかの音楽高校の人たちからも、オーケストラに呼んでもらったり」

そして大学への進路を決めるとき、松井さんはひとつの決断をします。それは、ジャズ専修への転向でした。

「同じ国立でも、クラシックとジャズでは校舎も違いますし、別の学校という感じです。クラシックを3年間勉強したら、今度はそれ以外のトランペットについても知りたくなりました。ジャズやポップスのトランペッターたちが、クラシックとはまったく違う演奏をしているのを見て、“これはなんだ!”と思って。目に入ったら、そちらへ行きたくなってしまったんです。とはいえ、ジャズ・ミュージシャンになりたいと思ったわけでもありませんでした」

未知の分野に飛び込んでいきたい

最初は即興演奏もできなかった松井さんでしたが、小曽根真との出会いによってジャズの世界へと引き込まれていきます。

「大学に入って最初の即興の授業の講師が小曽根さんでした。自分はスケールとかを教わると思っていたのですが、小曽根さんはそういうことを、4年間で一度も話したことはありませんでしたね。音楽とどうやって向き合うか、自分が言いたいことを音楽でちゃんと言うことができるか、そういった本質的なことを教えてくださいました。

即興ができないことについても、言葉と同じで、自分が言いたいことが言えるようになるまでに時間がかかるのは当然で、恥ずかしいことではない。けれど、言いたいことがあったら、それを言うことは絶対に間違っていない。正解があって、その通りに演奏するのではなく、自分が思ったことを表現するのが大事なんだと。それを聞いて、確固とした意志がないとできない音楽なんだなと思って、ジャズが好きになっていったんです」

現在はジャズクラブからコンサートホールまで自在に行き来する松井さん。クラシックを演奏するときと、ジャズを演奏するときで、意識に違いはあるのでしょうか?

「先ほど“軸足はトランペット”と言いましたが、自分にとっては、これは普段やっている音楽で、これは普段とは違う音楽といった線引きはまったくないので、クラシックを吹いているときも、ジャズを吹いているときも、感覚的には同じです。ただ、そのときどきに欲しい音にはかなり幅があるので、そういった意味では吹き分けています。

トランペットという楽器は、唇を振動させて、それを増幅させる仕組みなので、音が楽器に影響されることが他の楽器に比べ少ないです。トランペットは楽器の性質に左右されることなく、自分自身で音を変えられる。そういうところがすごく好きなんです」


9月には『Bunkamura オフィシャルサプライヤースペシャル 未来の巨匠コンサート2025』で、アルチュニアンのトランペット協奏曲を、東京フィルハーモニー交響楽団と共演予定。そこでも松井さんならではの演奏が聴けそうです。

「高校の卒業試験で演奏した、大好きな曲です。自分は日頃からトランペットで“歌うこと”を大切にしているのですが、この曲はとても歌いやすいですし、アルメニアの民俗的な要素が強く出ていて楽しいです。カデンツァ(楽章の最後に設けられるソリストの独奏パート)はドクシツェルという人が書いたものが一般的ですが、今回はそれをもとに自分でその場で作っていく感じになると思います。今年6月にシエナ・ウインド・オーケストラとこの曲を共演した際も、リハーサルと全然違う感じで本番を吹いたので、どうなるかやってみないとわかりません」

最後に、どんな音楽家になりたいかを聞いたところ、こんな答えが返ってきました。

「これまでも、自分がやってみたいところに、未知の分野でも飛び込んできましたが、これからもそうしていきたいと思っています。やってみてうまくいかないこともたくさんありますが、それでも挑戦し続けたいです」

トランペットを携えて、音楽の広大な海へと漕ぎ出した松井さんの今後がますます楽しみです。

文:原典子
写真:大久保惠造


<プロフィール>

1999年生まれ。国立音楽大学附属高等学校を経て同大学ジャズ専修を首席で卒業。2023年『STEPS OF THE BLUE』でメジャー・デビュー。2024年にはセカンド・アルバム『DANSE MACABRE』をリリースし、全国ツアーを敢行。自身のジャズカルテットやピアノとのデュオ公演をはじめ、小曽根真 No Name Horsesへの参加やアーティストサポート、スタジオミュージシャンとしても幅広く活動。また、オーケストラとクラシックの協奏曲の共演を重ねるなど、ジャンルを超えたマルチな才能に注目を集めている。これまで、テレビ朝日「題名のない音楽会」やMBS/TBS「情熱大陸」などメディアでも取り上げられ話題となっている。

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〈公演情報〉

Bunkamuraオフィシャルサプライヤースペシャル
未来の巨匠コンサート2025
Discover Future Stars

2025/9/7(日)
Bunkamuraオーチャードホール
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