
“世界一難しい楽器”ホルンの魅力とは?
ホルンという楽器をご存じでしょうか。オーケストラや吹奏楽のコンサートで、舞台下手(客席から見て左手)の中段に、4~5人ほどでそろっている楽器です。カタツムリのような、丸い金管楽器で、「パオーン!」と、元気な中音域を聴かせてくれます。今回は、ホルン奏者の福川伸陽さんへの取材を基に、ホルンという楽器の魅力や、7月に開催する『ワールド・ホルン・サミット』についてご紹介します。
世界トップ9人が奏でる、“世界一難しい楽器”!
ホルンは、チャイコフスキーのバレエ『くるみ割り人形』~〈花のワルツ〉、ワーグナーの『ワルキューレの騎行』などで活躍します。モーツァルトやリヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲も、よく演奏されますし、吹奏楽ファンだったら、C.T.スミス『フェスティヴァル・ヴァリエーションズ』冒頭の、超高難度フレーズでおなじみでしょう。
そんなホルンの、世界トップ奏者9人が集結するコンサート『ワールド・ホルン・サミット』が開催されます。よくぞ、これほどのメンバーがそろったと、いま話題の公演です。さっそく、仕掛人でもある、元NHK交響楽団の首席ホルン奏者、福川伸陽さんに、話をうかがいました。
「国際ホルン協会の催しなどを除けば、これだけの顔ぶれが一堂に会するコンサートは、世界初だと思います。3~4年前から準備を開始し、ようやく今年の7月、実現にこぎつけました」
「数年越しの企画です。毎年、誰かの都合が合わないので、またダメかな・・・と思っていたら、奇跡的に今年、全員OKだったんです!」
そもそも、ホルンとは、どういう楽器なのでしょうか?
「ギネスブックで、“世界一難しい楽器”と認定されています。というのも、ピアノなどは、特定の鍵盤を弾けば、誰でも、その音が出ますよね。しかし、ホルンは、そうはいかない。4つのレバーと、息の量や、唇の形を変化させながら組み合わせ、5オクターヴもの音域を出す。唇を2ミリ閉じて、息の量を3ccにして……みたいなことを、音ごとに、一瞬でやらなければならないんです」
聞くだけでゾッとする楽器ですが……。
手前は、福川さん愛用のホルン「S.W.ルイス」。アメリカの楽器職人、スティーヴン・ルイスが1本ずつオール・ハンド・メイドで製作。当日、どんな響きを聴かせてくれるか?(奥は18世紀のナチュラル・ホルン)
“ホルンはオーケストラの魂”!
「ところが、ホルンが加わることによって、オーケストラの響きが格段と豊かになるんです。弦楽器、木管楽器、ほかの金管楽器の音色に、実にきれいに溶け込むんです。よく木管アンサンブルに1本だけ、金管楽器のホルンが加わっているのは、そのためです。しかも、意外と細かいパッセージを、広い音域で奏でることができるので、ここぞというときに、見事な響きを聴かせてくれます。シューマンは、“ホルンはオーケストラの魂である”とまで述べています」
今回は、そのシューマンの、『4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック ヘ長調 Op.86』が演奏されます(プログラムA)。ホルン4本をフィーチャーした協奏曲で、高音域を要求される難曲です。
東京フィルハーモニー交響楽団と共演するプログラムAに対し、プログラムBは、ホルンのみの“サミット・アンサンブル”。映画音楽の『スター・ウォーズ』なども予定されています。
「中学に入ってすぐ、先輩に吹奏楽部に連れていかれ、ホルンを吹かされたら、一発で音が出たんです。実はトランペットが第一志望だったんですが、先輩から“おまえ、ホルンの天才だよ!”なんておだてられて、そのままホルン担当になりました。そのころは、『スター・ウォーズ』のような映画音楽が大好きでした」
今回は、9人中、2人が女性奏者です。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のサラ・ウィリスと、元フィラデルフィア管弦楽団のデニース・トライオン。特にサラは、20年前に、ベルリン・フィル初の女性金管奏者として話題となりました。
「女性ホルン奏者も、ずいぶん増えました。いま、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団もロンドン・フィルハーモニー管弦楽団も、ホルンに女性がいます。しかも今回の2人は、ふだん、下のⅣ番(最低音域)を担当しているんです。世界的に女性の活躍なしには考えられません」
そのほか、日本でも大人気、ベルリン・フィルの元首席奏者、“バボちゃん”こと、ラデク・バボラークも参加、指揮もつとめます。今回は、現在のベルリン・フィル首席、シュテファン・ドールまでもが来日。そのほか、ロサンゼルス・フィルハーモニー、パリ管弦楽団、BBC交響楽団の首席奏者も勢ぞろい。この間、世界中で“ホルン不足”が発生するのでは、と心配になるほどです。
「彼らは、“世界一難しい楽器”で、どんな音でも、どんなパッセージでも、軽々とこなしてしまいます。ホルンに興味のある方、現在ホルンを演奏している方はもちろん、初めて接するという方でも、間違いなく、楽しめて、驚いて、感動できるコンサートになるはずです」
だから、コンサート名は、『ワールド・ホルン・サミット』=世界のホルンの「頂点」なのです。
文:富樫鉄火
さらに福川伸陽さんにホルンをはじめたきっかけや、ホルンの好きなところをお答えいただきました!
ぜひご覧ください。

〈プロフィール〉
世界的に活躍している音楽家の一人。NHK交響楽団首席奏者としてオーケストラ界にも貢献した。ソリストとして、NHK交響楽団、パドヴァ・ヴェネト管弦楽団、京都市交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団他と共演。
ロンドンのウィグモアホールをはじめ、ロサンゼルスやブラジル、アジア各国でリサイタルをするなど、世界各地から数多く招かれている。
東京音楽大学准教授、国際ホルン協会評議員。
X @Rhapsodyinhorn
instagram @nobuakifukukawahorn

〈公演情報〉
ORCHARD PRODUCE 2025
福川伸陽共同プロデュース
ワールド・ホルン・サミット
WORLD HORN SUMMIT
<東京公演>
2025/7/12(土)19:00開演
2025/7/19(土)19:00開演
会場:Bunkamuraオーチャードホール
<大阪公演>
2025/7/18(金)19:00開演
会場:ザ・シンフォニーホール