ミュージアム開放宣言ミュージアム・ギャザリング ― ミュージアムに出かけよう。ミュージアムで発見しよう。ミュージアムで楽しもう。

今月のゲスト:福本ヒデさん@「リバプール国立美術館所蔵 英国の夢 ラファエル前派展」


『表現の力、本物の魅力』


中根:展覧会をご覧になって、具体的に心に残った作品はありますか。

福本:大きな水彩画(エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ《スポンサ・デ・リバノ(レバノンの花嫁)》)は凄かったですね。3m以上あるんですよね。展覧会ってあんまり予習せずに見た方が楽しいのかもしれないんだけれど、今回ギャザリングに参加するに当たって、ちょっとホームページなんかで予習しちゃったんです(笑)。でも本物の前に立つと全然違いますね。パソコンの画面やカタログではこの凄さは伝わらない。本物の持つ力ですね。水彩ということもあると思うんですが、布の質感が素晴らしかったです。後はペルセウスとアンドロメダ(フレデリック・レイトン《ペルセウスとアンドロメダ》)も迫力ありました。ペガサスに乗ったペルセウスの部分も輝いていて、やっぱりカタログで見るのとは違います。

宮澤:カタログとの比較で言うと、大きさや色味はしょうがない部分もあるんですが、最も違うのは額縁。この《ペルセウスとアンドロメダ》の額縁の装飾って神殿みたいだったでしょ。額の部分まで含めてしっかり見ると、見え方が全然違うんですよ。

海老沢:カタログに額縁まで含めて作品を載せる場合もあるんですが、実際に美術館から作品をお借りする際に、額が変わってしまうものもありますので、基本的には絵の部分だけ掲載するんです。今回作品をお借りしたリバプール国立美術館の学芸員の方がおっしゃっていたんですが、ほとんどの作品が当時の額装そのままだそうなんですね。そういう意味では額も見所だと思いますので、全体芸術としての絵画を楽しんでいただければと。

宮澤:特にこの時代のイギリスではアーツ・アンド・クラフツ運動という動きがあって、工芸の分野も重要だという考え方が生まれた時代でもあるので、絵だけじゃなくて、額も大切にされたんですね。

福本:大量生産のものではなくて、ひとつひとつ絵にあわせて作られているってことですよね。だから、額も含めた上での絵画作品なんですね。

中根:へヴィ・メタル風(笑)の人物が登場する、ジョン・ロダム・スペンサー・スタナップ《楽園追放》も、絵そのものにも立体的な装飾がされていますから、これは額も含めた上で本物を見ないと、この絵の良さは伝わってこないですよね。

福本:あと、個人的には、ジョージ・フレデリック・ワッツの作品がよかったですね。《十字架下のマグダラのマリア》の表情が印象的。マグダラのマリアはルネサンスの画家もよく描いていますが、ここまで突き詰めて描いた作品はあまり見たことがありません。古典的な宗教画とは視点も描き方もまったく違いますね。キリストやマリア様がモチーフの宗教画って、日本人としてどうとらえればいいんだろうと思うことがありますが、自分自身が、この作品に描かれたマリアのような状態になることってありますよね(笑)。そういう意味では親近感も沸きました。

中根:僕は渋谷の専門学校で講師をしていて、毎回、学生たちとザ・ミュージアムの展覧会を拝見するんですが、今回は学生たちがみんな好きだったと言っていました。メンバーは女性が多いということもあると思うんですが、表現の手法や衣装など、食い入るように見ている子もいました。今の時代の漫画やアニメから影響を受けている若い人たちにとって、ファンタジーとリアリティのバランスがちょうどいいんじゃないでしょうか。さっき福本さんもおっしゃいましたが、、これでもっと反骨精神や革命的要素が強く絵に出ていると、彼らもちょっと引いちゃうんじゃないかと思います。

宮澤:ラファエル前派の場合は、あまり政治的な意味合いはなかったと思うので、今の若い人たちにも楽しみやすいかもしれないね。ミレイなんかは社交界に取り入って、彼らの肖像画もたくさん描いていたから、きっと稼いでいただろうし。逆にそういう場で活動していたからこそ、政治的な発言も出来なかったんでしょうね。

海老沢:彼らは、宗教をテーマにしていても、当時の人々の解釈の中に落とし込んで描いていたので、それほど宗教画らしさを感じさせない部分もありますよね。ですから、今回展覧会をご覧になったお客さまにお話を伺うと、新しい解釈の宗教画や芸術活動というよりも、ただ純粋に美男美女が描かれいてる作品も見に来ました、という方もいらっしゃいます。

福本:ちょっとしかめっ面をした女性の肖像画(アントニー・オーガスタス・フレデリック・サンズ《トロイアのヘレネ》)も好きでした。一連の流れの中で、急に感情をあらわにした作品が出てくるから印象に残りますよね。なんでこういう表情を描いちゃったのかなと。どこかお笑い芸人みたいですよね(笑)。

宮澤:当時この絵を見たイギリス人には“トロイアのヘレネ”っていうと、ストーリーやキャラクターがわかるんでしょうね。物語の中に嫉妬に駆られる人や、誰かに恨みを持つ人なんかも登場するでしょうから、そういう登場人物の感情を表そうとしたのがこの画家の特徴で、それが成功した作品ですよね。

中根:今回はどの作品にも、見る側の想像力によっていろいろな解釈ができるような物語性が込められていて、ベースになっている物語を知っているかどうかで楽しみ方も違ってきますよね。ザ・ニュースペーパーのみなさんは、政治をテーマにされることが多いと思うんですが、特に政治というテーマは、見る側に関心があるかどうかでかなり見え方、伝わり方が変わってくるんじゃないかと思うんですが。

福本:確かに、政治をテーマにしているということで「難しそう」、と思われることもあります。ただ、政治だけじゃなくて、その時代のトップニュースを扱うことが多いですし、ある程度わかりやすく作りこんでいる部分があるので、そういう意味では受け手の知識のあるなしに関わらず、多くの方に楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。あと、やっぱり本物の持つ力ですよね。それって美術館も同じかもしれません。例えば、僕らの舞台も最終的にDVDになりますけれど、ライブとDVDを比べて、DVDで見た方が面白かった、という人は絶対いません(笑)。ですから、ぜひライブに来ていただいて、その場の迫力を感じていただきたいですね。

  編集後記
 
 

「風景画の誕生」展の際に作品と対峙する面白さを発見した、と言う福本さん。今回のギャザリングはそんなご縁から実現しました。舞台と展覧会、全く異なる分野のコラボレーションに内心ドキドキしていましたが、さすが福本さん。「ザ・ニュースペーパー」の一員として、時事ネタを面白く、分かりやすくアウトプットするという作業を日々されているだけあり、展覧会を読み解いていく視点にもその鋭さが表れていたような気がします。
舞台も展覧会も体験を楽しんでいただく場。今回の話の中にも出たように、そこでしか出会うことのできない“ライブ感”を大切にするという感覚はまさに舞台で活躍されている福本さんならではのものであり、私たち美術館にも共通する部分だと改めて感じることができました。演者として、アーティストとして、型にはまらない表現方法を追求されている福本さんの活動に今後も注目です!

佐藤(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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