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坂本美雨さん @20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代


『共有される感情』


高山: ピカソ、クレー以外に気になった作品はありましたか?

坂本: ミロの《リズミカルな人々》も音楽が感じられてよかったし、イヴ・タンギーの《不在の淑女》がよかったです。一瞬ダリを思わせる雰囲気ですが、非常に幻想的で美しいと思いました

中根:タンギー良かったですね。後、個人的にはマグリットの作品が素晴らしかった。《とてつもない日々》は始めて見ましたが、暗く沈んだトーンの中に人間の恐ろしさや滑稽さが表現されている気がしました。

坂本:シュルレアリスムの作品って、現実を超えるだけでなくて、時間や記憶も一瞬で飛び越えられるんじゃないかっていう気がしました。そういう意味では音楽と似ているかもしれません。

高山:今回はシュルレアリスムの作品についてはあまり宣伝していないんですけど、いい作品がいっぱいあるんですよ。

中根:美雨さんのおっしゃる通り、全体を通してみると、この時代の人たちがお互いに影響を与えながら創作していたり、生きていた様子がリアリティを持って伝わってくるんですが、そこから感じられる“熱”って、今、さまざまなメディアで行われている安易なコラボレーションとは全く違う種類のもののような気がしますね。

坂本: それもやはり“戦争”という出来事を共有しているからじゃないかと思いましたね。こういう時代には、作品に対する批評はもちろん、そもそも絵なんか描いている場合じゃないと言う批判もあったでしょうし。でもそういう逆風の状況だからこそムーヴメントやカルチャーを起こせたのかなと。今の時代は、みんなで共有できる確かなものがなくて、アーティストも点在してしまっていて、大きな動きに結びつきにくい気がするんです。

中根: 音楽でも日本人が口をそろえて歌える曲がなくなったってよく言われますけど、何かを共有することで生まれる熱や感情があるのかもしれませんね。それが戦争だとすると複雑な気持ちになりますが。

坂本: 今はこういう大変な状況だからこそ、例えばみんながクレーの作品のような温かみのある色彩や日常的な生活が出来ることが素晴らしいんだよと言うメッセージに惹かれるのではないでしょうか。その時代によって何が人の心に響くのかは違ってくると思いますし、アーティストの意識や作品の形も変われば、メディアの形も変わっていきます。だから今、どういうものを創ればいいのか、それは私たちが常に考えなきゃいけないと思います。

中根: 最近では動画配信なんかも一般的になってきましたし、まだまだこれからいろんなメディアは出てくると思うので、そういうものをうまくまとめていけば、ムーヴメントやカルチャーにつながる動きを起こすことは出来るかもしれませんね。

坂本:もちろん、そのやり方だけじゃなくて、そもそも人々が何を求めているかを考える必要があると思うんですね。今の時代はわかりやすい共通体験がありませんから、人の心を動かすためには、生々しいものやネガティブなものではなくて、もう少しファンタジックなものが求められてくるのではないでしょうか。クレーの持つ温かい色彩とか、ポップ感っていうのはもっとみんなに響いていいし、それを必要としている人もいると思います。

海老沢: 世の中が不況になったり、難しい時代になったりすればするほど、美術館や展覧会には、温かさやぬくもりが求められるような気がするんですが、そんな状況の中で、どういった展覧会を提供していけばいいのか、それは私たちにとっても課題です。

中根: そういう意味では、今回の会場の最後にクレーがまとめられていたので、中にはメッセージ性の強いものもあったけれど、最終的にはご覧になったお客様が幸せな気持ちになってくだされば嬉しいですね。

高山:最後に今回のイメージソングについて美雨さんからメッセージをお願いできますでしょうか。

坂本:もともと私のアルバムから選んでいただいたもので、この展覧会のために作ったわけではないのですが、それでも共通する部分が非常に多いように思います。私にとって、母が練習しているピアノの音が子守唄だったのですが、そういう風に自分を預けて安心できる音色が、今の世界中の人たちにもあればいいなっていう思いで作りました。自分の記憶の中のピアノの音色が、なぜかクレーの作品の色彩と重なるんです。ぜひ展覧会とあわせて楽しんでください。

  編集後記
 
 

普段からBunkamuraをよく利用してくださっているという坂本美雨さん。
いつか一緒にお仕事をと願っていたところご縁があって叶いました。
今回は、20世紀の画家たちの作品について同じアーティストという立場からの感想を語ってくださりました。美雨さんのクリエイションにかける情熱や想いから、創造、表現することの素晴らしさ、社会の中でのアート、またアートが社会にできることなど様々なことをあらためて考えさせられる時間となりました。展覧会イメージソングの“Libera in Sleep”を収録したアルバム『Zoy』(ギリシャ語源で「生命」の意味)は、「生きること」をテーマに「歌うこと」の喜びを優しくも力強く唄われた1枚です。是非聴いてみてください。

高山(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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