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レイチェル・チャンさん@モディリアーニと妻ジャンヌの物語展


『ジャンヌの瞳』


レイチェル: モディリアーニが彼女を描いた絵を見ると、非常にエレガントで上品で物静かな女性に見えるんですが、写真を見るとまったく違うんですよね。これは自分のブログにも書いたのですが、私は特に彼女の瞳にとても力強さを感じるんです。会場の最初に帽子をかぶっている写真がありますが、これは本当に強くて印象的な瞳ですよね。

中根: 写真の写り方もあるのかもしれませんが、小さいころの写真もそうですよね。何か芯の強さを感じさせる力がありますね。

宮澤: 彼女の瞳の色に関しては諸説あるんですが、基本的には忘れな草の色と言われているんです。薄い水色ですよね。

レイチェル: 会場には彼女の髪の毛も飾られていましたが、力強いという意味では同じですね。海外の展覧会や博物館でもよくロケットペンダントなんかに亡くなった方の髪の毛がお守りとして入っている展示を見たことがありますが、彼女の髪の毛からは、やはり生命というかエネルギーというか、そういうパワーが宿っているような感じを受けました。
それにしても、彼女の瞳にはこれだけ強さを感じさせる力があるのに、なぜモディリアーニは瞳を描き込まなかったのか不思議に思うんですよね。もちろん中には描いているのもありますが。

宮澤: これに関しては、瞳があると、その絵を見ている人が描かれた人物と対話しちゃうから、わざと描かないようにしているということらしいんですよ。この人はもともと彫刻家だから、造形美とか形の面白さとか、色のバランスのよさとか、そういう造形的なものだけで勝負したいという思いがあったんでしょうね。だから、絵を見る人と絵の中の人物との対話を避けたと。まあ、生活のためにお金を得ないといけないから、そういう場合は瞳を入れて描いたんだろうけど。彼がジャンヌを書いているときは、ある時は愛する奥さん、ある時は身近の都合のいいモデルという両面があって、それが瞳の有無につながったのかもしれませんね。

レイチェル: なるほど。ただ、私はやっぱり瞳のない絵がすごくさびしげに感じます。ブラックホールのような何もない空洞のような、深く暗い感じを受けてしまいますね。

中根: 僕もどちらかというと瞳が描かれている方が好きで、モデルとなった人物の体温が感じられるし、どこか安心するんですよね。瞳がないとやはり感情が感じられないし、造形美よりも先に不安な気持ちになります。モディリアーニは病気がちだったことなどもありますから、どこか絶望感を抱えていたのかなと。

海老沢: ただ彼は映画とかで描かれているほど貧乏ではなかったんですよね。いろいろと絵の注文も入っていたわけですから。それでもモディリアーニを描いたジェラール・フィリップ主演の映画『モンパルナスの灯』では、フィクションの部分があるにしても、最後に出てくる画商は結構悪い人ですが。

宮澤: 今回の展覧会は、一応ジャンヌの友人の新聞記事がベースになっていて、そういう意味ではある程度の信憑性はあるけれど、100%じゃないんですよね。他にもモディリアーニやジャンヌに関してはいろんな逸話や噂があるんだけれど、それは彼らがそれだけ人々に好かれている証拠かもしれない。ただ、ジャンヌの最後の写真を見ると、ちょっとおなかが膨らんでいる感じだから死ぬ直前の写真だと思うんだけれど、生活苦からなのか、やつれた感じがあるよね。やっぱり錯乱して精神的に不安定だったのかなあと。

レイチェル: 一人目の子供についても、あまり子育てに積極的でなかったみたいなことも書いてありましたが、愛する人の子供を生むことが幸せなのか、アーティストとして作品を極めることが幸せなのか、芸術家としては難しいですよね。彼女はこんな短い間に、人生最大の幸せを一気に得て一気に失くしてしまったわけですが、それでも私は“幸せ”と感じられた一瞬があっただけでも、彼女にとって良かったんじゃないかと思います。ジャンヌの生き方に女性として共感できるかどうかは人それぞれだと思いますが、私は結構共感できましたから。

  編集後記
 
 

今回は個人的にも大好きなJ-WAVEの番組「RENDEZ-VOUS」で4月からナビゲーターを務めているレイチェル・チャンさんにお越しいただきました。ラジオで聴いている声の印象どおり、実際お会いするとやはり知的で聡明、そして美しかったレイチェルさん。ジャンヌ・エビュテルヌの強い瞳に魅せられ、その生き方に共感できる部分があったというコメントがありましたが、レイチェルさんもジャンヌの持つ芯の強さのようなものが内面から溢れ出る素敵な女性でした。
今回の展覧会では、作品の前で本当にじっくりと鑑賞し、運命のアーティスト・カップルの悲劇のストーリーに感激して涙を流されている方の姿などもみかけました。これからも感動を呼ぶ展覧会作りに励みたいと思います。

高山(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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