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今月のゲスト:若木 信吾さん@「流行するポップ・アート」展


『ポップ・アートが伝えるもの』


若木: 今回「ポップ・アート展」っていうことで、個別の作品がどうのこうのじゃなくて、こういう話になるんじゃないかな、と思ってたんだけど、やっぱりそうなったなって思う(笑)。だけど、逆にポップ・アートっていっても、個別のアーティストは結局個人的な感情や思い入れで作っているんだ、っていうのが見て取れたので、それは一番の収穫でしたね。僕が今やっている雑誌「youngtreepress」でやっていることもそうだから。いわゆる個人的な話を自分で書いて写真も撮ってもらってみたいな。世の中の人にとって、有名でも誰でもない人たちがやっていることなんだけど、実はそこで語られる話自体は国籍とかに関係なく理解できる話なんですよ。やっぱり一個人が自分の話をせずに、一般的なことを言ったところで何も伝わらないと思うんですよ。それが今回の展示の中にも感じられたからすごい面白かった。

中根: そこは僕なんかも思うところで、メディアが普及していることもあって、普遍的なものがまず先に流通してしまうみたいな感じもあるんだけれど、当然、個人的な体験の中にこそ、そういう真実とか正しさみたいなものが含まれていると思うんですよ。だから、「youngtreepress」のコンセプトはすごく共感できるんですよね。

若木: やっていて面白いですよ。それは今の生きている人たちの、若い人達のリアルな話をやってるからだと思う。僕もそれこそいろいろ写真集とか好きだし見ているんだけど、さんざん集めたものを昔のものからずっと見てきて、“じゃあ、今何やってるんだろう?”と思ったときに、全く知らないことがあることに気づくんですよ。で、それを知るには自分でフィールド・ワークやっていくしかないんですよね。地道に。例えば、写真の歴史は250年とかいっても、1年くらい本を読んだりして勉強すれば大体はわかっちゃう。でもこれからのことはひとつずつやってかないとできないんですよね。

海老沢: 確かに、こういう個人の視点だけを集めた雑誌って今までなかったですよね。この潔い感じがすごく新鮮でした。

若木: 僕が日本に帰ってきてもう8、9年経つんだけれど、やっぱり無かったから自分で始めたというか。

中根: 個別にはインターネット上のホームページとか日記サイトみたいな感じで、個人が自分のことを発信しているというのはあるけれど、それぐらいですよね。

若木: この雑誌をやっているのが大きい会社でお金やネットワークがたくさんあったら、もっといろんな事ができるかもしれないけれど、少ない人数でやってるからかなわない。だから大手企業に負けることは一切やらない。そのかわり僕らはひとりひとり個人面談が出来て、ひとつの記事に半年くらい時間をかけられるから、それが出来るというのが強みですよね。で、それが最終的に形になる時に、印刷やデザインの面でちゃんとした人に頼んで、物としてのレベルとかクオリティを上げるということをやってる。

中根: そのやり方が特にいいと思うのは、集まる人たちのクオリティにも影響すると思うところなんですよ。メジャーなところがメジャーなやり方でやると、やっぱりそこに記事を投稿する人たちは、いわゆるメジャー志向だったり、ブランド志向だったりするんじゃないかなと。「youngtreepress」も若木さんのブランドというのもある程度あるかもしれないんだけど、だけどその姿勢や手法に共感して、発表したいと思う人が集まるわけで、それはやっぱり強いものを持った人たちだと思うんですよね。だから、短期的に見ると難しいかもしれないけれど、長期的には絶対勝算はあると思う。個人的にはポップ・アートに関しても、作品そのものよりも姿勢とかアプローチに共感するところが大きいんですよ。 しかし、こういう話をするといつも思うんだけど、自分がやっている仕事やギャラリーを考える時に、自分は個人というものになぜこういうアプローチをするんだろうと。若木さんもそうじゃないですか?広告・ファッションの世界で最先端の仕事をしているのに、おじいさんとか幼馴染の人を撮っているじゃない。そういう視点って説明しづらいなあと。

若木: いつもパーソナライズっていうか、自分にしか出来ないことは何か?ていう風に考えていくことが多いから、その前までは説明できるんだけど、じゃあそれを行動に移すときに、自分にしか出来ない事がなんで身近な人を撮ることなのか、というところになっちゃうとほとんど説明できないというか、そういうのはありますよね。

宮澤: だからやっぱり言葉で説明できないことってあるし、作る人、撮る人、描く人が必ずしもそれを説明しなくてもいいと思うんだよね。そういう説明をするのは美術史家とか写真評論家とか僕らの仕事なんだから(笑)。

  編集後記
 
 

ポップ・アートというと、同時代ではないけれどすごく身近に見慣れている感じでいわゆる過去の美術という感じもしなくて…と微妙な印象があり、展覧会のプロモーションにあたっても、同時代の人が当時を思い出して懐しく観るのか、若い人たちが現代的な感覚で楽しむのか判断しかねたのですが、結果としては、歴史としてではなく現代の広告やデザインを見るような感覚で楽しんでくださった若い世代のお客様が圧倒的に多かったようです。若木さんとお話させていただいて、そのあたりの位置付けがよりクリアになったような気がして有意義でした。

海老沢(Bunkamuraザ・ミュージアム)

 

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