ミュージアム開放宣言ミュージアム・ギャザリング ― ミュージアムに出かけよう。ミュージアムで発見しよう。ミュージアムで楽しもう。

今月のゲスト:酒井 俊彦さん@グッゲンハイム美術館展(1)


『ミュージアム・ショップの役割』


高山: 酒井さんは、今回雑誌の『TITLE』さんとコラボレーションということでミュージアム・グッズをデザインしてくださいましたが、展示されている絵ではなくて、グッゲンハイム美術館の建物をモチーフにされていらっしゃいますね。これは最初からこういうコンセプトで始められたんですか?

酒井: そうですね。最初にコンセプトありきでした。今回のデザインのために、いろんな美術館、ミュージアム・ショップを見に行ったんですよ。そうしたら結構有名なところでも、あまり展示と関連性のないグッズがたくさん並んでいて驚いたんです。何でこれがここにあるの、みたいな(笑)。それで、そういう関連性をちょっと考えたものを作ろうと。勿論所蔵作品をモチーフにしようとも思ったんですけれど、結構制約も多いですしね。

中根: 確かに美術館で売られているグッズって、結構どこでも似たようなものが多いですよね。展示している絵をそのままプリントしたTシャツとかマグネットとか。でも今回は展示を見終わって、グッズを販売する場所に来ても楽しめましたね。酒井さんのデザインされた透明なポストカードにいろんな人が絵を描いたものを見本として展示してあったりしてね。今回のコラボレーションのグッズ展示はもっと大きく場所をとっても良かったんじゃないですか。

鷲尾: ミュージアム・ショップって実はすごく面白い場所と思うんですよ。海外の美術館の中にあるショップには面白いものがいっぱい置いてありますよね。ただ単に行った証としてのおみやげ物じゃなくて、ミュージアムにあるものをシェアするというか、持って帰るみたいな感じのものが多い気がします。必ずしも展示されてあるものと同じ物である必要はないと思いますよ。コラボレーションじゃなくて、ミュージアムが独自に企画・製作してもいいと思うんですよ。

酒井: この前、ロンドンのヴィクトリア&アルバートミュージアムに行った時かな、そこでチョコを売ってたんですよ。それが金色のアルミホイルみたいので覆われていてちょうど金メダルみたいになってたんですね(笑)。で、山のように積んであるんですよ。それがちょっとうれしい感じがしたんですね。そういう気持ちにさせるっていうのは大事だと思うんです。他にもTシャツとかもありましたけど、結構ちゃんと作っていましたよ。

中根: 今回、僕はこのブックマークを買ったんです。もちろん透明できれいだったし、自分は本を読むのが好きだからというのもあるんですが、結構枚数が重なっていたので、人に気軽にあげられるかなと思って。「行ってきたよ」みたいな。そうするとグッゲンハイムの建物をモチーフにしたものをみんなで、さっきのシェアじゃないけど、共有する感じがなんか楽しいなと。まあ1枚ずつにバラしてしまうと建物のモチーフじゃなくなっちゃうんですが(笑)。

『パーソナルな関係』


鷲尾: 酒井さんはどういうプロセスで実際にデザインのお仕事をされているんですか?

酒井: 主婦の人が中心になって台所用品を開発しました、みたいなのってあるでしょ? 実は僕もそれとそんなに違わないと思うんですよ。ただ、主婦の人だと「こうすると便利」ってなるところを、僕たちの場合は「こうすると持っていて楽しい」っていう視点になるところが少し違う。それから大事なのは関連性ですよね。例えばこの部屋にもお茶碗とか本棚とかいろいろありますけど、Bunkamuraという美術館の中にあるお茶碗は、または本棚はどういう理由でこういう色・形になっているのか、そこの関連性を突き詰めて考えることが重要だと思いますね。環境とそこにおかれるモノの関係を考えてデザインするということですね。

中根: 僕は、ちょっと地域の町おこしみたいなことにも関わることもあるんですが、町に人を呼ぶために全然関係ない外の文化やシステムを持ってくる場合があるんですよ。その時に流行っているものとかね。そういうのにはものすごく違和感を感じるんです。

酒井: まあ最初はよそから持ってきてもいいと思うんですけど、それに誇りを持てるとか自慢できるとかの理由付けが無いとだめですよね。やはり自分のこととして考えられるかどうかだと思うんですよね。それが出来れば徹底的に突き詰めて考えますよ。他でもない自分のことなんですからね。

鷲尾: さきほど酒井さんが絵画の楽しみ方として「奥さんとの会話が弾むことが大切だ」っておっしゃったのも、まさにそういうことですよね。

酒井: 例えば美術館で絵を観るっていうのも、日常からかけ離れた行為ではなくて、あくまでも日常の延長線上にあるものだと思うんです。だからそんな風に自分のこととして楽しめればいいんだと思います。たとえば僕がデザインしたプロダクトに関しても、その人がその人の生活の中でどんな風に使ってもいいと思うし、僕もデザインしてつくった後は、どう使われようが全く気にしません。アートでもデザインでも結局自分自身とその作品のとてもパーソナルな関係性の中で楽しむものなんだと思います。

  編集後記
 
 

グッゲンハイム美術館展でステキなコラボグッズをデザインしてくださった酒井さん。少々緊張気味で始まった今回のギャザリングでしたが、酒井さんの、お気に入りの作品は「ウサギちゃん」で一気に話が弾みました。“パーソナルな関係性の中で楽しむアート”。今回のギャザリングには、アートをもっと身近に日常に楽しむヒントがたくさんありました。 皆さんも展覧会場を訪れたら、リビングに飾ってみたい絵探し、そして酒井さんのコラボグッズを忘れずにチェックしてくださいネ!!

(高山)

 

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