ミュージアム開放宣言ミュージアム・ギャザリング ― ミュージアムに出かけよう。ミュージアムで発見しよう。ミュージアムで楽しもう。

今月のゲスト:吉田 恭子さん@オードリー・ヘップバーン展(2)


『オードリーの強さと美しさ』


高山: 今回の展覧会でも最後のカプセルでユニセフの活動を紹介しているというのは、人生の中で最終的にたどり着いた活動だったっていうことを紹介したいためなんです。 全体を通してご覧になった印象はいかがでしょうか。


Timeless Audrey Exhibit, Copyright cAudrey Hepburn Children’s Fund.All rights reserved.

吉田: オードリー・ヘップバーンさんの展覧会はいろんなところで行われているので、今まで何度か足を運んだことがあるんですが、今回はカプセル毎のテーマ設定が素晴らしいと思いました。彼女の息子さんもこういう風にお母様が紹介されて嬉しいんじゃないかな。
 ユニセフのコーナーで見られた映像にも感動しましたね。誰しも子供の頃の環境や経験って、将来にわたって影響してしまう。彼女も、戦争とか両親のことがその後の人生に非常に影響したんでしょうね。

海老沢: 今回は11のカプセルを通して、彼女を単なる映画スターとしてではなく、一人の女性の人生として紹介しています。もちろん、彼女には美しさや華やかさがあるけれど、やっぱり自分でいろんなことを選択して歩んでいるという芯の強さをこの11のカプセルを通して見終わったときに感じるんですね。そんな強さが実はオードリーの魅力の源泉なのかもしれません。

吉田: 生涯ハリウッドにはお家を持たなかったみたいですし、いろんな映画のオファーも断っているって聞いたことがあるんです。そういうところも私はすごいなって思いますね。きっと自分に厳しかった人なんじゃないでしょうか。いろんな選択を迫られたときがあったと思いますけれど、スターという立場にいる人が、そういう風に自分のスタイルや生活を守って生きるって大変だったんじゃないでしょうか。

中根: 彼女は当時女優を撮らせたら世界一と言われていたヒッチコック監督からの出演依頼を断っているんですよね。そのことで監督をめちゃくちゃ怒らせたらしいです。だから、自分のスタイルを守るって、言うのは簡単だけれど、実際には大変なリスクを背負う場合がありますよね。

宮澤: ヴァイオリニストとしてのお仕事をする上で、そういうオードリーの生き方や精神面から影響を受けていることはありますか?


Timeless Audrey Exhibit, Copyright cAudrey Hepburn Children’s Fund.All rights reserved.

吉田: そうですね。やっぱり影響は受けていると思います。音楽っていうのは、ほとんどの作曲家が残念ながら亡くなられているので、「こういう風に弾いてほしいんだよ」という思いが、楽譜という暗号として残っているだけなんですね。後はその楽譜を頼りに演奏する人の人間性や感性で表現するしかないんです。私はブラームスとかバッハとかベートーベンがとても好きなんですが、彼らに共通するのは、自分の感情を押し殺して抑制した先にある美しさなんですね。それはものすごく強い精神力がないとできない音楽だと思うんです。オードリー・ヘップバーンさんの美しさも、色々な物をデコレーションしていくのではなくて、どちらかというと削ぎ落としていくことで表現されているものだと思うんですよ。そういうところは非常に影響を受けていると思います。

高山: 今、若い人たちの間でもサブリナパンツにバレエシューズみたいな格好が流行っていますよね。あれもやっぱりオードリーの影響があると思うんですけれど、そういうファッションの面はもちろん、精神的な部分や生き方みたいなものも、今の若い人たちにどんどん吸収してもらいたいですよね。

海老沢: この前の印象派展では「五感で感じる印象派」ということでお料理や音楽等さまざま企画を通じて印象派を楽しんでいただくという企画を行ったんですが、そういう風にいろんな人が参加できるような企画を提案して、美術館にしてもクラシックにしても、もっといろんな人が足を運んでくれるようになるといいですよね。

吉田: じゃあ次は展覧会とあわせてクラシック・コンサートをやりましょうよ。クラシックって日本ではまだまだ年齢層が高いので、特にもっと若い人にコンサートに足を運んでもらいたいんです。
 今、ヴァイオリニストして活動させていただいているのは本当に有難いことなのですが、お客さんとの一体感というか、空気感というか、言葉では表せない何ともいえない瞬間が私にとってはとても大切なんです。 それは決して計算して出来るものじゃない瞬間。なかなか簡単に味わえるものじゃないけれど、味わっちゃうと止められない。そんなときになんて素晴らしい世界に身を置いているんだろうって感じます。
 勿論CDを聴いて心地よくなってくれる人がいたらすごく嬉しいのですが、それはその先にある演奏会に行くきっかけになってくれるともっと嬉しい。やっぱり人の心を打つのは「生の音」だと思うんです。それは録音技術なんかによって浄化されたものではなくて、ざらざらしたものなんです。でもそのざらざら感が人の心に響くんだと思うんですよ。

宮澤: ヴ我々のような美術館が存在する意味なんてまさにそこでね。実際の原画を見ると、写真で見るのとは色が全然違うし、質感も違う。そういうことを実際にこの場に来て感じて欲しいんですよね。ヴァイオリンを聞きながら絵を描いたり、その逆で、絵を見て音楽を選んだり、そういう企画もぜひ一緒にやりたいですよね。

ギャザリングの模様を動画でもお楽しみいただけます!

オードリー・ヘップバーン展についてはこちらから(巡回先のご案内)


  編集後記
 
 

今回のギャザリングは、ギャザリングの模様をBunkamura onフレッツにて動画でもお楽しみいただこうという初の試みを行ってみました。いつもは雑然としたミュージアムの学芸員室でかなりラフな雰囲気で行っているので、テレビのスタジオのようなスペースでカメラに囲まれてピリッとした雰囲気が漂う中のギャザリングに「ちょっと勝手が違うなー」などと呟きながらもとても新鮮な気分で収録できました。いずれは、ミュージアム館内で作品に囲まれながらのギャザリングというのにもチャレンジしてみたいです。ご期待ください!

(海老沢)

 

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