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今月のゲスト:マダム由美子さん@オードリー・ヘップバーン展(1)


ID_006: マダム由美子(バレリーナスタイル提唱者、クラシックエレガンス研究家)
日 時: 2004年6月1日(火)
参加者: ギャザリングスタッフ(中根大輔、鷲尾和彦、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

マダム 由美子(まだむ ゆみこ)
 北海道出身。恵泉女学園卒。6才よりクラシックバレエをはじめ、ジャズダンス、アルゼンチン
タンゴを習得。1993年~1995年銀座読売カルチャーサロンにて美容 ダンスを主宰。1994年 香
りの学校「ミヤ・フレグランス・スクール」東京表参道本部校校長に就任。全国の香水コーディネー
ター、フレグランスデザイナーの育成・指導の傍ら多くの企業研修を担当。ホテルオークラレディス
サークル講師他、多数の 企業、自治体にて「美と香り」をテーマに講演活動を展開。
ライフテーマは西洋のクラシックな芸術文化から受け継がれる女性本来の美の追究。 バレエのエッ
センスを取りいれた立ち振る舞い「バレリーナスタイル」を提唱、レッスン 講座を開催。

マダム由美子さん 公式HP


『バレエから生まれる美』


海老沢: 当に夢中になってご覧頂いているお姿がとても印象的で、こちらも嬉しくなってしまうほどでした(笑)。


Timeless Audrey Exhibit, Copyright cAudrey Hepburn Children’s Fund.All rights reserved.

マダム: 会場がテーマごとに分かれていて、見やすかったですね。それでもトータルにコーディネイトされている統一感はちゃんと感じられました。最後の方のカプセルに香水が展示されてあったのですが、香水って最後の仕上げっていうイメージがあるので、そういう意味も込められているのかなって思ったんです。だからすごく考えて展示されているなって。バレエでも、ただ主役が一生懸命踊っているだけではなくて、他のダンサーや舞台の全てが一体にならないと美しさが伝わらないんです。オードリーもバレエでそういう演出の方法を学んでいるはずですから、今回のように会場全体に美意識がいきわたっている展覧会というのは素晴らしいと思います。

高山: 通常、ザ・ミュージアムは美術展がメインなので、壁面に作品を飾ることが多いんです。でも今回の会場デザインはとてもユニークなスタイルになっています。
「まるでタイムカプセルに乗ったかのように、戦争による飢えや不安を体験したオードリーの幼少期から、ユニセフの活動を精力的に行っていた晩年までを時代に沿って見ていって欲しい」というのが、今回の展示の目的であり、また会場設計を手掛けたイタリア人デザイナーの意図なんです。それぞれのカプセルを組み立てるだけでもまるまる1週間程度かかっていますし、ここまで造作を作りこむには正直大変な労力もかかりました。ですから、こうした会場の演出についても楽しんで頂けると本当に嬉しいですね。

マダム: 私はオードリーのファッションにも勿論興味はあるのですが、それ以上に彼女が自分の身体とその特徴をよく理解した上で、自分自身のスタイルを築き上げていったという点にとても興味を持っているんです。ですから、今回の展示スタイルにおいても、ただ洋服や写真を飾るだけではなくて、彼女の小さいころからの生き方を通じて、彼女の内面の部分まで入っていくような見せ方をされていたのがとても良かったと思いました。

中根: マダム由美子さんはオードリーの美しさにはバレエが基本にあるとおっしゃっていますね。具体的にはどういうところに表現されているんですか?

マダム: (今回の展覧会図録を手にとって)例えばこれは彼女のプライベートをスナップした写真だと思いますが、何気なくレコードに手を伸ばしている姿を撮ったこの写真、普通なら前かがみになったときに背中が丸くなるはずなんです。 けれどもオードリーの場合、すべて腰から頭の先までが一直線のままです。バレエでは鎖骨の部分の美しさというものを維持するために、胸元を動かさないで踊る練習をします。胸元がむやみに動くと落ち着かなくなりますし、踊りに丁寧さとか、エレガントさが出てこないんですね。この1枚の写真を見ても、彼女がバレエで訓練されたことをしっかりと日常の中で身につけているということが分かります。こんな何気ないスナップにこそ彼女の美しさの秘密を見つけることが出来るのです。

海老沢: おっしゃるとおりですね。驚きました。今回の展示の特徴として、オードリーの素顔の部分を捉えたプライベートな写真が多いんです。彼女がプライベートでくつろいでいる姿を見ても、本当に美しいし絵になるなって思っていたのですが、そういう事なんですね。納得しました(笑)。


Timeless Audrey Exhibit, Copyright cAudrey Hepburn Children’s Fund.All rights reserved.

マダム: 他にも、皆さんがよくご存知の『ローマの休日』のアン王女を正面から捉えたショットがありますよね。これもどこが美しいのかというと、もちろん顔の表情とか雰囲気とかもあるでしょうけれど、私はやっぱり胸元だと思うんです。もしこのオードリーの肩の部分がちょっとまるまって、首が前に出ていたらこれだけ気品がある雰囲気は出なかったと思うんです。最初に王女が登場して、宮殿に入っていって周りを見渡すシーンなのですが、喋っている時も本当に胸元が動かないんですよね。常に涼しげにキープされているんです。

鷲尾: オードリーに限らず、女優の方でバレエを学ばれている方ってたくさんいらっしゃいますよね。その中でも特にオードリーらしさっていう部分はどんなところでしょうか。

マダム: それは「手」だと思います。彼女はすごく手の動きがきれいなんですよ。身長が高かったので、バレエでは『アダージョ』(これはフランス語で「優雅な動き」という意味なんですが)の練習にすごく力を入れていたらしいんです。細やかな切れのある動きよりも、ゆったりとした手の動きを自分の特徴にしよう、と思ったのでしょう。 もともとバレエというのは、ベルサイユの時代の貴婦人たちが、貴族的で平和的な印象を与えるために、教養として身につけていたということもあるんですね。ですから、極端にいってしまえば、誰でもバレエを学べば、それなりに貴族的な振る舞いはできると思うんです。それでも、やはりオードリーは今言ったような努力もあって、彼女にしか表現し得ない動きを獲得したんだと思います。

中根: 僕は映画が好きなので、オードリーの作品も一通り見ていますが、初めて本格的に出演したデビュー作とも言える『初恋』は、さすがに他の作品に比べると地味な感じがしていたんですね。でも、この映画でのオードリーの役柄はバレリーナの卵で、ダンスシーンも多いですから、今おっしゃられたような点に注意して見ればまた違った楽しみ方が出来るかもしれないなと思いました。

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