
「助六」より:十二世市川團十郎の花川戸助六
1985年 限定54
今や、世界の共通言語となった「浮世絵/Ukiyo-e」。18-19世紀当時、蕎麦一杯の価格で買えたという安価性、それに相反する洗練された芸術性、さらには娯楽性まで併せ持った世界に類を見ないメディアとして、国内はもとより海外でも衝撃をもって迎えられ、多くの芸術運動へと影響を与えてきました。
存在感のある役者絵と、その卓越した技術により国内外から高い評価を得ている木版画家・弦屋光溪(Tsuruya KOKEI)は、絵師・彫り師・摺り師と分業制だった往時の技法を全て独学で身に付け、そのレベルを「現代の“写楽”」と言われるほどに高めた稀有な作家です。1978年、初めて鑑賞した歌舞伎に衝撃を受け、役者絵の制作を決意。サラリーマンから木版画家へと転身し、代表作となる大首絵シリーズを歌舞伎座にて発表し続け、その数は200点 総部数11322部にも及びます。
光溪が描くのは、単なる役者絵ではありません。大胆にデフォルメされた顔・表情・構図により役者へ肉迫する内面的写実性は、痛烈な鋭さとユニークさを合わせ持ちます。その作風はまさに写楽に通ずるものであり、正統でありながらもそれを超える、今に生きる浮世絵と言えるでしょう。
摺り終えた版木には全てノミを入れ、二度と擦れなくするという光溪。終えた仕事ではなく、常に先を見据えてきた作家が辿り着くのは、浮世絵であって浮世絵ではない、まだ見ぬ新たな様式なのかもしれません。
Bunkamuraでは2回目となる本展では、2000年を最後に終了した大首絵シリーズの貴重な旧作に、猫をモチーフにした戯画、新作のだまし絵シリーズ、光溪のもう一つのライフワークである自画像など、現代浮世絵の醍醐味を味わえる作品の数々を展覧・販売いたします。肩で風を切るかのような爽快感、見得切る緊迫感、胸に迫る哀切の情―。現代浮世絵の傑作の数々、この機会に是非お楽しみください。