手塚治虫の魂を引き継ぐ者たちによる傑作
新演出で世界に向けた第二フェーズに突入
「たとえば、早く親離れしたいと思っている子どものように、原作から独立した作品を創作することもできたでしょう。でも僕は『プルートゥ』を親から切り離したいとは思いませんでした。この舞台を、親である浦沢直樹さんと長崎尚志さんに観て欲しかったからです」
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2015年1月、『プルートゥ』の初日の幕が下りた後、観劇に訪れた原作者のふたりを前に、演出・振付のシディ・ラルビ・シェルカウイはそう語った。
あらゆるタイプのダンスに、オペラからビヨンセのMVまで、ジャンルの区別なく手がける天才振付家が、初めて手がけた演劇作品。漫画のコマを象徴する7つの大型パネルを、8人のダンサーが縦横無尽に組み合わせてゆく装置に、上田大樹によるプロジェクションマッピングの概念を超える映像が投影され、原作から抜け出たかのごとく精巧に造られた実物大のロボット(パペット)も登場。俳優が演じるアトムやウランには、文楽の人形遣いのようにダンサーが密着し、彼らが人間ではなく、アンドロイドであることを表現してみせたりもした。
こうした独創的なアイデアを駆使しながらも、こだわったのは、あくまでも原作のエッセンスを忠実に再現すること。冒頭のシェルカウイから作者へのメッセージを受けて、浦沢直樹氏は言った。
「僕は『手塚(治虫)先生の魂のようなものを損うことなく形にできないか』。それだけを考えて『PLUTO』を創りました。今日この舞台を観て、今また正しく手塚先生の魂が甦っていると思いました。素敵なバトンが手渡されているなと」
あれから3年。原作者から太鼓判を押されたシェルカウイ版『プルートゥ』は、森山未來、吉見一豊、柄本明の不動最強メンバーに、土屋太鳳、大東駿介、吹越満というフレッシュな顔ぶれとパワーアップしたダンサー陣を迎え、いよいよ新演出による次なるフェーズに突入。人間とロボットの共存に平和への願いを込めた手塚治虫の魂を、世界に向けて発信し始める。
手塚治虫の『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」をリメイクし大ヒット。内外で愛読され続けている浦沢直樹・長崎尚志の漫画『PLUTO』を、大の手塚治虫マニアで『TeZukA』というダンス作品まで手がけている世界的ダンサー・振付家・演出家のシディ・ラルビ・シェルカウイが、演劇作品として舞台化。同じく手塚ファンで、『TeZukA』に続くシェルカウイ作品への出演となった俳優・ダンサーの森山未來をはじめとする豪華俳優陣で2015年1月に上演された。原作のビジュアルを多用した映像や、全長約4メートルにおよぶ「プルートゥ」など、精巧に造られたロボットのパペットも多数登場。それを操作するダンサー陣の大活躍もあって、原作漫画のイメージが見事に立体化され大反響を呼んだ。「普段はひとりで読む漫画を約700(シアターコクーンの座席数)人で一緒に読む感覚」を目指したというシェルカウイの演出は、舞台芸術の世界に一石を投じた新感覚の演劇作品となった。
STORYストーリー
ロボットと人間の物語ではない… これは、全人類に叩きつけられる【愛】と【憎しみ】の黙示録!!
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人間とロボットが共存する時代。世界最強といわれるロボットが次々と破壊される事件が起こる。高性能刑事ロボット、ゲジヒトは犯人の標的が、自身を含めた7体の大量破壊兵器となり得るロボット達だと確信。日本に渡り、限りなく人間に近い存在であるロボット、アトムと共に謎を追うことに。内戦で家族を失った世界最高峰の頭脳を持つ科学者アブラー、人間を殺害した唯一のロボット、ブラウ1589との接触により核心に迫っていく。
ゲジヒトは日々、忌まわしい悪夢に苛まれ、妻ヘレナも彼の不調を感じ不安を隠せない。アトムもまた、お茶の水博士に愛情豊かに育てられながらも、自身の生みの親である天馬博士との複雑な関係がその心に影を落としている。葛藤を抱えながらも事件の解決に向けて尽力するアトムとゲジヒトであった。
時を同じくして、アトムの妹で悲しみを察知する能力を持つウランが廃墟の壁に花畑の絵を描く不思議な男と出会う。そこにアトムが駆け付けると、男に異変が起こり…
TOUR欧州ツアー
■2018/2/8(木)~2/11(日)イギリス・ロンドン公演 Barbican Theatre
■2018/2/15(木)~2/17(土)オランダ・レーワルデン公演 Stadsschouwburg De Harmonie (欧州文化首都レーワルデン2018 招聘作品)
■2018/2/22(木)~2/24(土)ベルギー・アントワープ公演 deSingel Red Hall

海外公演助成:平成29年度文化庁国際芸術交流支援事業
コメント
2012年にシディ・ラルビ・シェルカウイ氏によるダンス作品『TeZu kA』に関わらせていただき、それに続きまたしても自身が敬愛する手塚治虫さんの作品(もちろん浦沢直樹さんの作品でもありますが)で彼と仕事をさせていただけることに縁を感じていました。
ダンス、芝居、映像など様々な要素をラルビの感性によって有機的に絡み合わせ、それを演劇作品として打ち出せたことが新たな視点を生み出すことになったのではないでしょうか。個人的には、文化交流使としてイスラエルに1年間派遣されていた状態から日本に戻ってすぐの公演だったので、日本の商業舞台の構造を改めて客観的に見ることができるタイミングでもありました。一度生まれた作品が一度限りで終わることなく、また関わることができることの喜びを最近は感じるようになりました。できる限り新鮮な気持ちで、ブラッシュアップを重ねて作品がより豊かになるよう精進できればと思っています。
土屋太鳳さんとはいつか関わることができればと思っていたので、一緒に作品作りができるのを今から楽しみにしています。アトムとウランのデュオができたりしたら面白いですよね。
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