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劇場の、そして〈あなた〉の欲望が、「マクベス」に浸食する―。

マクベス Macbeth

作:W・シェイクスピア 翻訳:松岡和子 演出:長塚圭史

2013年12月8日(日)~12月29日(日) Bunkamuraシアターコクーン

TOPICS トピックス

「『マクベス』の楽しみ方」レクチャーレポート

何度観てもまた観たくなるシェイクスピアの魔力

 『マクベス』の開幕を間近に控えた11月29日、翻訳家・演劇評論家の松岡和子さんによるプレ・レクチャー「『マクベス』の楽しみ方」が開催されました。
長塚圭史が演出を手がける今回の公演では松岡さんの翻訳を使用しており、当日も直前まで稽古を見学していたという松岡さんは興奮冷めやらぬ様子。作品の魅力とともに、今回のプロダクションの見どころも「ネタバレにならない程度に」(松岡さん)紹介していただきました。最後には嬉しいサプライズも!

 スコットランドの武将マクベスはダンカン王を殺して自らが王位に就きますが、不安に苛まれて転落の一途を辿ります。「このような“上昇”と“下降”の軌跡を辿るのは四大悲劇の中でも『マクベス』だけです」と松岡さん。と同時に、作品のもう一つの柱はマクベス夫妻の緊密な絆にあります。「ところがそんな2人はある時点から切り離されていきます。転落の悲劇と、夫婦が[we]から[alone]になっていく悲劇と、軌跡を同じくしている。計算にしろ無意識にしろ、シェイクスピアの凄さですね」。

 さらにマクベス夫妻に子供がいないこと、さまざまな魔女の解釈、はじめから悪人ではないマクベスの人物像など、ポイントとなるシーンや台詞を例に挙げて、興味深いお話が続きます。主役以外にも、マクベスと一緒に魔女の予言を聞くバンクォー、マクベスのライバルとなるマクダフ、微妙な立ち位置にいるロスなど、気になる登場人物がぞろぞろ。「人物の書き分けの見事さもシェイクスピアならでは」という松岡さんの言葉に深く納得です。 

 新しいプロダクションで作品が上演されるたびに、もう一度最初から戯曲を読み直すという松岡さんは、出来る限り稽古場にも足を運ぶそうです。今回も稽古場で新たな発見がいくつもあったとか。「翻訳する際には私も一言一言、その人物の立場になって日本語にしますが、全作品を自分の役の視点から読む役者さんにはとてもかなわないと思うんです。今回もマクベス役の堤真一さんからすごく面白い質問をいただいて、役者さんに対する尊敬の念がまた深まりました」とのこと。その内容は公演プログラムでも紹介していますので興味のある方はぜひご覧ください。 

 今回の長塚演出では魔女の捉え方が大きなポイントになっていますが、そのほかにも注目したい場面やキーワードがたくさんちりばめられています。「どんな場面でもさまざまな解釈ができるのがシェイクスピアの魅力です。だから何度やってもまたやりたくなるし、何度観てもまた観たくなる。正解が一つではないから面白いんですよね」。

 レクチャー終了間際には、ロス役の横田栄司が稽古場から駆けつけるという嬉しいおまけつき。深みのある声でロスの台詞を披露し、その迫力に一同大興奮です。松岡さんと息の合った掛け合いも楽しく、大いに沸いたレクチャーは終了。作品の奥深さと、稽古場の臨場感が伝わる松岡さんのお話に、『マクベス』の“楽しみどころ”もさらに広がる貴重なひとときとなりました。

文:市川安紀