長塚圭史氏コメント

幕末。過激な尊攘(尊王攘夷)を邁進したため、賊軍と断ぜられた憂国の士、水戸天狗党一派。尊攘という、いや義という幻想(ロマン)を命を賭して追い求めた天狗党は、あまりにも凄惨なる結末で幕を閉じた。
数年後。目まぐるしく時勢は移ろい、晴れて官軍となった天狗党残党による血で血を洗う復讐劇の幕が開く。
しかしそこでは虚無だけが漠々と無限に広がる。昼とも夜とも夢ともつかぬ暗闇の中、刀を振る音と、肉が裂ける音ばかりが果てしなく聞こえ続ける。

私はこの劇の始まりを天狗党の争乱から八十年余り過ぎた太平洋戦争直後と定めることにした。こうした仕掛け がどれだけのものを生み出せるのかはまだハッキリとはわからないが、活劇だとか史劇だとかといった範疇に収まら ないものになるのではないだろうか。
山田風太郎氏の傑作小説を恐れ多くもあくまで土台とさせて頂き、そして阿佐ヶ谷スパイダース史上最大の劇場となるシアターコクーンという空間を浮遊して、また一つ新たな冒険が出来ればとニヤニヤ武者震いをしている。

長塚圭史