「私はドロンの話に耳を傾け、薄い青い瞳を見ていた。」
“イル・イラ・ロアン、彼は遠くに行くだろう”。この言葉の響きに光が見える。“彼は成功するだろう”という意味だ。
1959年パリ、11月。マラケイ河岸のアラン・ドロンのアパルトマンを初めて訪問。アール・デコ様式の建物は、玄関兼サロンを入ると左右に分かれる構造で、左が代理人ジョルジュ・ボーム。右がアラン・ドロンの居室は寝室でもあり、大きなベッドがひとつ。座る椅子がないので、ベッドの上に腰かける。彼はベッドの上に横座りになり、録音器を真ん中に相対した。
この年の7月。撮影中のジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』のラッシュ20分を見て、買い付けを決定した一件を耳にした製作者アキム兄弟は、撮影中の作品を同じ条件で、セールスしてきた。アンリ・ドウカのカメラは圧倒的だったが、契約条件は厳しい。アラン・ドロンへの取材を申し込んだのは雑誌のためだが、選択決定の重要な鍵であった。あの時代、外国で働く日本人は何でもした。ドロンの人気は日本では出始めてはいたが、お膝元のフランスは今ひとつ。フィアンセ、ロミー・シュナイダーのスイスの別荘での会見を決めたのはドロン自身。だが、二転三転し、すでにロミーの親族側の波風が立ち始めていた。
人も映画も、最初が勝負。『太陽がいっぱい』について、お互い一切語らず、私はドロンの話に耳を傾け、薄い青い瞳を見ていた。目千両。その目は何も見ていない。彼自身だけを見ていた。自分の未来だけを見ていた。男優が時折見せる、媚も色気もなかった。何のために私が来たのかを熟知していて、彼の計画についてのみ話した。夢を語るのではなく、手に入れんとしている設計図を語った。泥水を飲みながら、ようやく表舞台に出て来た青年は、ベルモンドやブリアリのようなお坊ちゃん育ちではなく、個性も演技力も未知数。ヌーヴェル・ヴァーグの流れに乗れるタイプではなく、美貌だけが頼り。だがフランスでは、その美しさは、よくあるタイプで珍しくない。だから、イタリア、ハリウッドへの飛躍を試みていた。インテリではないが、勘は抜群。仕事に関しては真剣で、冷静だった。アラン・ドロン、25歳になったばかりの秋は、鮮烈な予感に満ちていた。アパルトマンを出ると、夜のセーヌ河が黒く光る。“イル・イラ・ロアン”。私は呟いた。
(秦 早穂子/映画評論家)
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山猫(4K修復版)
IlGattopardo
1963年/イタリア=フランス合作/187分/カラー/イタリア語版
監督:ルキーノ・ヴィスコンティ出演:バート・ランカスター、アラン・ドロン、クラウディア・カルディナーレ
統一戦争に揺れるイタリア。シチリアを統治する名門貴族の当主、サリーナ公爵は、自分たちの時代の終焉が近いことを感じていた。一方、公爵が目をかける甥のタンクレディは革命軍に参加。新興ブルジョワの娘、アンジェリカと恋に落ち、公爵はそれを後押しした。そして、世代交代を告げる大舞踏会の幕が開ける......。映画史上に残る伝説のクライマックスは、全篇の約1/3を占める大舞踏会。本物の貴族を含む240人のエキストラが参加、撮影は36日間にも及んだ。アラン・ドロン演じるタンクレディのまるで太陽のような輝きが、スクリーンで炸裂する。
上映時間
7/1(土)10:20、7/2(日)15:45、7/3(月)10:20、7/4(火)18:50、
7/6(木)12:50、7/7(金)15:40、7/8(土)16:00、7/9(日)18:40、
7/11(火)13:15、7/12(水)10:20、7/13(木)12:50、7/14(金)15:40 -
© 1962 Cité Films
地下室のメロディー
Mé́lodie en sous-sol
1963年/フランス/118分/モノクロ/BD
監督:アンリ・ヴェルヌイユ 出演:ジャン・ギャバン、アラン・ドロン、ヴィヴィアーヌ・ロマンス
5年の刑期を終えた老ギャングのシャルルは、カンヌのビーチにあるカジノを狙う現金強奪を計画。相棒として、刑務所で知り合った青年フランシスとその義理の兄を誘う。貧しい暮らしを送っていたフランシスはシャルルのアドバイスに従い、金持ちを装って高級ホテルに乗り込み、準備を進めてゆくが...。ジャン・ギャバンとアラン・ドロン、フランスが誇る二大スターが初共演を果たしたフィルム・ノワールの名作。ギャバンの圧倒的な貫禄、ドロンの鋭い眼光、そして全編を彩るスタイリッシュなジャズの音色が、いつまでも頭から離れない。
上映時間
7/2(日)10:30、7/3(月)14:15、7/5(水)19:15、7/6(木)16:45、
7/8(土)13:15、7/10(月)16:20、7/11(火)10:30、7/14(金)19:35 -
©Société Nouvelle de Cinématographie (SNC) - Paris 1967
冒険者たち
Les Aventuriers
1967年/フランス/113分/カラー
監督:ロベール・アンリコ 出演:アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカス
元レーサーのローランとパイロットのマヌーは兄弟のように仲が良く、性格はそれぞれ違うものの人生に強い刺激を求めているところはそっくりだった。夢を追いつつも挫折を味わうふたりは、彫刻家のレティシアと共に海底に沈んだ財宝を探し求めてコンゴ沖までやってきたが、財宝を狙っているのは、彼らだけではなかった...。恋愛感情と友情が入り混じった3人の男女による冒険映画。ドロンは野性味溢れるルックを魅せてくれると同時に、アンサンブルの中で繊細に絡みあう感情も上手く表現した。アラン・ドロン作品のなかでも特に人気の高い青春映画。
上映時間
7/1(土)17:00、7/2(日)13:15、7/3(月)19:35、7/4(火)10:30、
7/5(水)15:35、7/6(木)19:30、7/7(金)10:20、7/8(土)19:35、
7/9(日)10:30、7/10(月)19:15、7/11(火)16:50、7/12(水)13:55、
7/13(木)19:15、7/14(金)10:30 -
©1968 SNC.
太陽が知っている
La Piscine
1969年/イタリア・フランス/124分/カラー/BD
監督:ジャック・ドレー 出演:アラン・ドロン、ロミー・シュナイダー、モーリス・ロネ、ジェーン・バーキン
南仏サントロペの別荘で、作家のジャン=ポールとマリアンヌはヴァカンスを楽しんでいたが、そこにマリアンヌの元恋人とその娘が現れ...男女四人の間で交錯する愛憎が目まぐるしいサスペンス。当時ドロンは殺人が絡む一大スキャンダルの最中にあり、それが本作におけるサスペンスの強度を一層高め、彼の異なる一面を堪能できる秀作となる。またかつての婚約者ロミー・シュナイダーとの共演も話題になっただけでなく、モーリス・ロネ、そして若きジェーン・バーキンと、四人の名演が素晴らしいハーモニーを生んでいる。近年では『胸騒ぎのシチリア』のタイトルでリメイクされた。
上映時間
7/1(土)14:15、7/4(火)13:20、
7/7(金)19:35、7/9(日)13:20、7/10(月)10:20、7/12(水)19:20 -
©1972 STUDIOCANAL - Oceania Produzioni Internazionali Cinematografiche S.R.L. - Euro International Films S.p.A
リスボン特急
Un Flic
1972年/イタリア=フランス/98分/カラー/BD
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル 出演:アラン・ドロン、カトリーヌ・ドヌーヴ、リチャード・クレンナ
ドロンと三度タッグを組んだフィルム・ノワールの巨匠メルヴィル監督の遺作にして、アラン・ドロンとカトリーヌ・ドヌーヴという絶世の美男美女が共演した夢の1本。強盗集団の一員であるシモンと、ドロン演じるパリ警察の冷徹な刑事コールマンは実は友人同士。リスボン行きの特急列車での麻薬強盗事件をみたコールマンは、主犯がシモンではないかと睨む。そしてその陰には哀しき女がいて...。ブルーを基調とした画面に、抑えられたセリフ、得も言われぬ余韻──これぞノワールといいたくなる危うい魅力と、友情と宿命の狭間で揺れ動く悲壮感を漂わすドロンの好演が光る。
上映時間
7/1(土)19:50、7/3(月)17:15、7/5(水)13:15、7/6(木)10:30、
7/9(日)16:20、7/12(水)16:45、7/13(木)10:30、7/14(金)13:20 -
©1984 GAUMONT / FRANCE 3 CINEMA (France) / BIOSKOP-FILM GMBH & CO PRODUKTIONSTEAM (Allemagne)
スワンの恋
Un Amour de Swann
1983年/フランス・西ドイツ/110分/カラー/BD
監督:フォルカー・シュレンドルフ 出演:ジェレミー・アイアンズ、オルネラ・ムーティ、アラン・ドロン、ファニー・アルダン
20世紀最高の小説として知られるマルセル・プルースト『失われた時を求めて』の内の1巻を元に脚色し、『ブリキの太鼓』などの名匠フォルカー・シュレンドルフ監督が映画化した大作。19世紀末、ブルジョアで教養ある若者スワンはある女性への恋に取りつかれる。それまで見ていた世界が一変し、その女性オデットのことしか考えられなくなるスワン。オデットは実は高級娼婦で──。ベテランになり円熟味を増したドロンはスワンを導く友人でゲイのシャルリュス男爵を演じる。ドロンとアイアンズの共演、そして当時の社交界の様子を美しく再現した豪華絢爛な美術、衣裳など、見どころ溢れる名作。
上映時間
7/2(日)19:40、7/4(火)16:20、7/5(水)10:30、7/7(金)13:10、
7/8(土)10:30、7/10(月)13:20、7/11(火)19:40、7/13(木)16:45