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1999年、山西省・汾陽<フェンヤン>。小学校教師のタオは、炭鉱で働くリャンズーと実業家のジンシェンの、二人の幼なじみから想いを寄せられていた。やがてタオはジンシェンからのプロポーズを受け、息子・ダオラーを授かる。
2014年。タオはジンシェンと離婚し、一人汾陽で暮らしていた。ある日、タオは父親の死をきっかけに離れて暮らすダオラーと再会し、彼がジンシェンと共にオーストラリアに移住することを知る。
2025年、オーストラリア。19歳のダオラーは長い海外生活で中国語が話せなくなっていた。自らのアイデンティティを見失うなか、中国語教師ミアとの出会い、かすかに記憶する母親の面影を探しはじめる――。
世界三大映画祭すべてで受賞をはたした名匠ジャ・ジャンクー。最新作で描くのは、母と子の愛から浮かび上がる、過去・現在・未来へと変貌する世界と、それでも変わらない市井の人びとの想い。本作は第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。上映後には5分以上にわたりスタンディングオベーションが贈られ、観客はこの一大叙事詩に胸を打ち、互いに想い合うひたむきな愛の姿に共感の涙を流した。
デビュー作『一瞬の夢』以来、いかなる作品でも市井の人びとと同じ目線に立ち、彼らの営みから“中国のいま”を映し続けてきたジャ・ジャンクー監督。本作は、中国が飛躍的に発展を遂げた90年代後半から、未来にまで迫った大胆な野心作だ。経済成長のなかで人びとはより良い生き方を求め、ある者は故郷を去り、ある者はその場にとどまる選択をしていく。時代のうねりのなかで翻弄され、彷徨い漂泊していく人びと。しかし、たとえ変わりゆく中でも、誰もがは精一杯に生きている。想いを伝達する手段が大きく変貌した未来でも、技術の進歩ではないものが人の心を繋いでいく。その姿に、我々は希望を見出すに違いない。私たちは知っている。どんなに遠く離れていても、この空はちゃんとつながっているということを。