推薦書籍
No.67
『絶望と熱狂のピアサポート:精神障害当事者たちの民族誌』横山紗亜耶 世界思想社
bookpond小池真幸
近年、「フィールドワーク」が脚光を浴びている。フィールドワークをもとにしたすぐれた書き物、あるいはフィールドワークそのものの手引きとなるような本を見かける機会が増えた。本来は文化人類学や民俗学をはじめとした一部の学問領域における調査手法であるが、その学術的な定義はいったん脇に置いても、日常の外側にある場所に足を運び、話を聴き、体で感じ、書くという営みが、鬱屈として閉塞した現実を脱するためのひとつの救いの糸口として、何らか人々を惹きつけているのかもしれない。
しかし、実際に生身の人間として、はじめは自らが他者として指さされる世界に入り込み、長く関係性を紡ぎ続けることは、決して生易しいものではないはずだ。そうしたフィールドワークの「厳しさ」に正面から向きあい、たんねんに対象を描き切った傑作が本書である。書くこと、書かれること、書かせること……フィールドワークをめぐって生じる「政治性」や「権力性」に葛藤しながら、精神障害当事者たちの絶望と熱狂を精緻に紡ぐ本書は、心地よい読書体験を転覆させ、読み手と書き手の前提を揺さぶる。
