私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.63

『みえないもの』イリナ・グリゴレ 柏書房

青熊書店青森担当(岡村豊彦)

『みえないもの』イリナ・グリゴレ 柏書房

その地で十代までを過ごした者として、外国に生まれ育った文化人類学者が青森をどう捉えるかに興味を持った。しかもルーマニアだという。東欧と東北は近いのか、遠いのか。
「蛍はイカと同じ。キラキラしたものに騙されて寄ってくる。道路向かいの温泉宿の人から聞いた。ハザードランプを点滅させると、たくさんの蛍が出てきて思わず手に取ってしまった」
母となった一人の女性が今、娘たちと生活する場所(青森)で出会う何気ない出来事と過去、子供の頃過ごした場所(ルーマニア)を記憶でつなぎ、その複雑な感覚を言葉で言い表すことで新しい意味を見出す。
この人はこの世界をこんなふうに眺めている。本を通じて、僕はそれを知りたい。このイリナ・グリゴレという人は僕には「みえないもの」が数多く見えている。
この世界は常に新しく解釈され、知的に美しいものなのだと気づかされる。
……そして同時に、暴力的なものが隠されているということも。

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