私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.62

『もしもし、こちらは夜です』宮田ナノ 大和書房

伊野尾書店スタッフM

『もしもし、こちらは夜です』宮田ナノ 大和書房

私は夜が好きだ。

何をしているわけでなくても、気づいたら深夜2時を過ぎているなんて日常茶飯である。

次の日を思って毎度絶望するが、この本を読んだとき私自身の色々な夜も鮮やかに蘇った。

私の夜を全て肯定してくれているみたいに。

おばあちゃん家の庭で親戚が集まってバーベキューをして花火をしたこと、その後広く暗い廊下を歩いてトイレに行くのが怖かったこと。実家裏の田んぼに突っ立って流星群を待っていたらマダニに足を噛まれたこと、学生の頃塾をサボって夜の公園でおしゃべりしていたら親が探し回っていたこと。大人になって上京し歌舞伎町に震えたこと、深夜高速のオレンジ色の光を見つめながら何度も眠りについたこと。

数々の夜がちょっとだけくすぐってきて、ふふっと笑みが溢れる。

いつか「もしもし、こちらは夜ですよー」なんて、かつての私に話しかけられるような気がして、今日もこの本を片手についつい夜更かししてしまう。

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