私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.61

『グーテンベルグの時代に回帰する』ささめやゆき 子鹿社

Sprout Books and Art 飯塚 芽

『グーテンベルグの時代に回帰する』ささめやゆき 子鹿社

ささめやゆきさんの絵の中に満ちている寂しさや切なさ、あたたかさは
どこからくるのだろう。

これまでささめやさんが出会った人のこと、色のこと、したためられてきた詩などと
そこにそえられた絵もささめやさんの心模様のような・・・日記のような本である。

この本を読みながら、ささめやさんがどれだけもがき苦しんで、自分自身と対峙しながら絵に向き合ってこられたのかを思ったのと同時に、Bunkamura Galleryでの本の出版記念の展示で、私がささめやさんと初めて出会った時のことを思い出していた。
本にさらっと私の似顔絵を描いてくださって、その絵のような優しさに包まれて感動で胸がいっぱいになったことを…。
その後、私が店長を務めたNADiff modernで何度か2階での展示をやっていただくことになり、2023年の4月9日にNADiff modernがとじる時、最後の展覧会もご一緒できたことはこの間のことのように脳裏に浮かんでくる。

ささめやさんの絵… かたちと色が紙の上で生命をもち、シンフォニーを奏ではじめる。
そして私の記憶の蓋がひらいて、あわいのように浮かんでは消えてゆく、
日々忘却してしまいそうな宝物のようなものを思い出させてくれるのだ。

この本の中にある、
「人生は半分喜び、半分悲しみ、みんな夢の中・・」
この言葉をささめやさんは座右の銘にしておられることを以前もお話されていた。

人生は喜びと悲しみが交互におとずれて、風のように一瞬で通り過ぎてゆくこと、
そして人はその一瞬一瞬の積み重ね、かけがえのない記憶のピースでできていることも絵が教えてくれた。
だからこそ、ささめやさんの描く“人”って愛おしい。
ささめやさんの線や色やことばが生きる喜び、哀しみ、生きてこそ広がる世界をわたしたちに示してくれているのである。

ささめやさんとのこれまでのメールのやりとりを見返していたら、
2021年の11月13日にこうあった。
「いつかあなたも自分のお店をだせるよう…」
そう言ってくださった言葉が頭の片隅にあり、私のおぼろげな夢であった本屋さんをやろうという決心につながっていくことになったのは間違いないだろう。

こうして2025年2月20日に夫とお店を開業することとなった。

そんな私たちのお店のためにささめやさんが描いてくださった絵は、
これから先もたくさんの人の読書に寄り添い、
私たちのお店を灯台のようにてらし続けて、ずっと見守ってくれるのだろう。

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