私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.6

『ドライブイン探訪』 橋本倫史 筑摩書房

本屋B&B
 三木浩平

『ドライブイン探訪』 橋本倫史 筑摩書房

 変わってしまったものを嘆いたり、なくなってしまった何かを素晴らしかったといったりすることはわからないでもないが、あまり好きな感情ではない。『月間ドライブイン』という名のリトルプレスで当初出ていたこの本に対して浅はかにも想像していたのは、そうした失われたものへの郷愁を綴ったのだろうということだった。そもそも僕は、ドライブインとサービスエリアの違いも今ひとつわかっていなかった。
 しかし、一ページ開くだけでその予想は全く見当違いであることがわかる。著者はもともと別にドライブインが好きというわけでもなければ、もちろんドライブインとサービスエリアも違うものだった。
 ここに描かれた人々は消えてしまった社会に生きた人々ではない。かつてあった社会は確実にそして分かち難くいま現在の社会とつながっていて、そこには震災被害があり、沖縄問題があり、地方の過疎化、虐げられてきた人々がいる。
 何よりも僕にとっての大きな発見は、そうした社会問題を外へと啓蒙するのではなく、いま目の前にいるその人個人の困難を見つけ出すこと、想像することの重要性であり、そしてその想像力は徹底した事実の積み重ねによって初めて膨らませることができるということだった。
 道路ができるのは、その向こうに待っている誰かがいるからだという当たり前なことを気づかせてくれる一冊。

 一覧に戻る