私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.55

『本の背骨が最後に残る』斜線堂有紀 光文社

文教堂二子玉川店 高橋茜

『本の背骨が最後に残る』斜線堂有紀 光文社

物語を語る者が「本」と呼ばれる国。原則1人(1冊)にひとつの物語が刻まれている。本たちは口伝で物語を繋ぐ。人が本となった国では『版重ね』『誤植』『スピン』、本好きならば馴染みのある言葉たちもここではだいぶ様子が違う。

表題作を始めとした、まるで御伽噺のような短編集。ドレスに宝石、化粧、言葉、知性、彼女たちを美しく飾るそれらの中には、目を覆いたくなるようなグロテスクが隠されている、あるいは大切に守られているのであった。わたしはこの美しさと凶暴さから目を離せない。

さらにこれは闘う者たちの物語なのだ。
自分の運命に、譲れない信念のために、命をかけて闘う強さに、どうしようもなく惹かれてしまう。

彼の国を訪れたら、わたしは本になるのだろうか、果たしてどんな物語を刻もうか極上のミステリーがいいな、と思いを馳せながら、今はまだ作中で言うところの「肺のない本」を存分に楽しみたい。

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