私のBunkamura文学賞

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No.54

『ねこのねえ』坂本千明(自主制作)

Amleteron アマヤフミヨ

『ねこのねえ』坂本千明(自主制作)

おそらく動物は皆、生に対して常に前向きである。そこがニンゲンとは圧倒的に違うだろう。黒猫は冒頭でその生を確認する。

「ねえ わたし おきたわ」

特別な事件は起こらない(厳密に言うと起きている!)、何気ない日々。ところがともに暮らし同じ時間を過ごす彼らは同じ速さの中にはいない。

紙版画で何度も色を刷り重ね表現された、夜の青に浮かぶ室内や猫の毛並み、それらの写実と精緻な美しさには目を見張る。

言葉が少ないからこそこれらの絵がじっくりと訴えかけてくる。その余白が読み手の感覚と想像を突き動かし、ページを繰るうちにわたしたちよりもずっと小さな彼らは一方でとてつもなく大きいことにあらためて気づかされるのだ。

猫と暮らしている人はもちろん、それ以外の小さな生き物と暮らす、あるいは暮らしていた、もしくはこれから暮らしたいと考えているすべての人へ、これは動物讃歌であり、と同時にニンゲンへの静かな訓戒だ。

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