私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.52

『あかるい花束』岡本真帆 ナナロク社

大垣書店京都本店 石川七海

『あかるい花束』岡本真帆 ナナロク社

岡本真帆さんの第二歌集、『あかるい花束』。
この歌集から、私のお気に入りの歌をひとつ取り上げたい。

好きなのに失くしてしまうピアスたち 捨てられないでいるこの指輪

お気に入りのピアスは、ふとした瞬間に旅に出てしまう。ピアスの片割れが帰りを待つ部屋で、もう長い間つけていない指輪が目を閉じているのが見える。その指輪はもういらない。もうお気に入りでもない。しかし、捨てることもできない。失くしてしまえば諦めもつくのに、けれども指輪はそこにある。
岡本さんの詠む歌の中には、まどろみのような優しさの中に、棘がほんの少し混ざっているものがある。私はそれがたまらなく好きで、痛いと分かっているのに触れてしまう。
それはまるで、花束に吸い寄せられるように。花に触れて、その棘が指先を刺すように。
私にとってこの歌集は、紛れもなく『あかるい花束』なのだ。

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