私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.50

『さみしい夜にはペンを持て』著/古賀史健 絵/ならの ポプラ社

パン屋の本屋 近藤裕子

『さみしい夜にはペンを持て』著/古賀史健 絵/ならの ポプラ社

 書棚の前で、果たしてどこに置くと輝く本なのか迷う。中学生が主人公だから児童書コーナーか、ベストセラーとなった同じ著者の『嫌われる勇気』のとなりか、文章術・日記の書き方の棚か。向上心を掻き立てられる内容かと思ってページを開いたら、いつのまにか小説としての面白さに夢中になって最後まで一気に読み進めた。

 文章術を説く本は数あれど、タコが主人公の物語仕立てで、ユーモアがたっぷり詰まった構成にしびれる。特に172ページ「たくさん」ということばから広がる類語を67コ記したイラストは圧巻だ。巻末には「もしも書くのが止まってしまったら、これを開けるように」と袋とじまである。未来へのお楽しみでまだ破いていないが、紙の本で繰り返し読みたい物語だ。

 文章は、書くのも、読むのも、体力や精神力がいる。主人公タコジローが、日記を通じて人や世界とつながったように、書店人としての私は日々、ことばに鍛えられ助けられている。

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