私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.5

『カモフラージュ』 松井玲奈 集英社

紀伊國屋書店 西武渋谷店
 竹田勇生

『カモフラージュ』 松井玲奈 集英社

書く、或いは描くという行為は刺繍のように繊細でなくてはならない。そして、言葉は刺繍針のように鋭敏でなくてはならない。私が探しているのは、痛みすら伴う言葉、こころに縫い付けられるような情景なのである。
この作品に配置された6編は、それぞれ異なる魅力を放ちながら、通底しているのは読者を射抜くようなまなざしである。それこそアイドルという肩書きが「カモフラージュ」と思えるほどの。彼女の武器がいわゆる泣かせる物語に代表される日本人の精神性に則した構造を組み立てる技巧であったなら、もっと素直に納得したのかもしれない。だが、この一冊は語らない=騙らない短編としての余白を備えつつ、言葉ひとつでとどめを刺さんとする執念のようなものが丹念な細部の描写のひとつひとつに満ち溢れていて、私にはそのことの方が驚きであり、恍惚に溺れ続けた所以である。
あの綺麗な顔立ちと微笑みの奥底に潜んでいる狂気を、これからも読み続けていきたい。

特典

紀伊國屋書店 西武渋谷店にてお買い上げの際に、「私のBunkamuraドゥマゴ文学賞」No.5のwebページ又は、Bunkamuraドゥマゴ文学賞メールマガジン2019年6月号をご提示の方、先着5名様にBunkamuraドゥマゴ文学賞オリジナル文庫用ブックカバー(非売品)をプレゼントいたします。

※実施期間:2019年6月11日~2019年8月11日
※特典はなくなり次第終了となります。予めご了承ください。

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