私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.40

『教誨』柚月裕子 小学館

丸善 丸の内本店 横山みどり

『教誨』柚月裕子 小学館

幼い子供を殺した罪で死刑囚となった女性の死後に、
特に親しかったわけでもない薄い繋がりの親族が真相を紐解いていく小説。
罪を認め、ただ黙って罰を受け止める受刑者の心の在処は…
当事者しか知らない事実をどう紐解いていくか。紐を解いていいのか。
事件のニュースをみて、単純に「犯人は悪人」と決めつけてはいないか。
そこに至る経緯までを想像出来るか。
罪を犯したのは悪い事。しかしその理由を、そうせざるを得なかった事や背景を見えているか。
言い訳をせずにいる死刑囚の本音はどこにあるのか。
小説には主人公がいる。けれど一人に絞って感情移入することの危うさ。
我々読者は、想像の海に放り出されその試練を課せられる、覚悟を持って向き合う小説である。
一人の人生が終わったその後で知った事実。生きている間に何か出来たかもしれない。
意地悪とも思える人の言い分もわかる。色んな感情が全く納まりきらず
いつまでもいつまでも引きずるこの読後感。
強い人間とは何か。「自分」を持つ事の覚悟。生きた事の証。
それを誰か一人でも分かってくれる人がいるかどうか。
夢のような世界ではなく、リアルな感情を総動員させられるこの作品を読んで欲しい。
感情の置き所を語り合いたい。

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