私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.39

『うちのねこ』高橋和枝 アリス館

ひるねこBOOKS 小張 隆

『うちのねこ』高橋和枝 アリス館

猫と文学。その二つは、切っても切れない間柄だと思う。

洋の東西を問わず、猫と暮らす文学者は多い。私自身の周囲をぐるっと見回せば、やはり幾人もの作家が猫とともに生活をしている。よく言われることだが、比較的「飼い主に従順」と言われる犬に対して、猫は自由気ままで決して思い通りにはならない。それなのになぜ、多くの人は猫を愛してしまうのだろう。いや、だからこそなのか。恋愛と同じで、追いかける方が楽しいからだろうか。いつでも「好き」と言ってくれる人より、「あなたの事をいつも考えてる」と伝えても「ふん」と返されるくらいの相手の方が、なぜか思いが強くなったりする。まあ、これは人によるが。

さて、『うちのねこ』である。もともと野良だったこの「ねこ」は、なかなか、というか全く懐かない。すぐにソファの下に隠れてしまうし、もうそろそろ大丈夫かな?と思っても、途端に噛みついたり、引っかいたりする。歩み寄ろうとしても、思う通りにはいかないのだ。これは何かに似ている。そうだ、「書かせたい」編集者と、気難しくマイペースな作家の関係にも似ているかもしれない。もしかすると、作家はそんな猫の姿に自身を重ねるからこそ、猫という生き物を愛してしまうのかもしれない。

絵本の中の「ねこ」は、季節が巡る中でゆっくりゆっくり「うちのねこ」になっていく。だんだんと距離が縮まる様子を眺めている読者は、最後のページに思わずほろりとさせられてしまう。もしこの後にまた噛みつかれたりしても、その穏やかな時間の記憶があれば大丈夫。恋愛も仕事も、どれだけ相手に振り回されたとしても「この一瞬」があるから、また追いかけようと思えるのかもしれない。

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