私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.34

『ねこのこね』詩/石津ちひろ 絵/おくはらゆめ アリス館

えほんのみせぱっきゃまらーど♪ 山本陽子

『ねこのこね』詩/石津ちひろ 絵/おくはらゆめ アリス館

年を重ねたせいか子どものころの思い出の中に浸ることがが増えたような気がする。
不思議と子どものころのような感覚で絵本が楽しい。

『ねこのこね』は言葉をあやつる奇才石津ちひろの真骨頂、言葉遊びの楽しさを詰め込んだような絵本であり「詩」だ。
読み始めると子ども時代、空地の草原に身を沈めて雑草の茎の硬さや、土のにおいや首に照りつける太陽の温度までがよみがえってくる。
仲良しの友達が生憎お稽古事か何かで都合がつかず、一人で(あの頃は空地に草がボーボーに生えていて、立ち入るのも許されていた)草の中へ入っていき、名も知れぬ花を集めたり寝転がって空を見上げたりしていた。
本書は読めば何十年昔のあの空地さえ思い出させる。

店に来た小学生と初めて声に出して読んだとき、一行読むごとに二人で笑う。紙の本でなければ成しえない楽しい読み方が生まれる。頭文字をまるでケンケンパ、の要領で読んだり、また言葉に色がつきだして、そこだけゆっくり読みたくなる。気がつけば絵本の中の虹の下で遊んでいるような気持ちにかられる。
このこ こねこ ねこのこね 読んだ後も心地よく心に馴染んでいく。
小学生は絵本を抱きしめて、ねこのこねのリズムで帰って行く。

小さな子どももただそこに佇んでいるのではなく、一生忘れない自分だけの世界を、草や風や空の色を脳内へ取り込んでいるのだ。そして生きていくどこかで幼いころに核となった経験が、ふと手に取った本の言葉となって、語りかけてくるのかもしれない。

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