私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.25

『恋する少年十字軍』早助よう子 河出書房新社

SNOW SHOVELING Books & Dialogue 中村秀一

『恋する少年十字軍』早助よう子 河出書房新社

「闘争」とか「革命」とか、そんな言葉が踊る物語に滅法弱い。根っからのアナーキストのつもりはないが、何を観ても、何を読んでも、小さきものや弱きもの側についてしまう。それがどうしてなのかをこの本を読んで更に痛感することとなった。この短編集は、いわゆる“ペイジターナー”とは言い難く、言い回しも独特で、説明も親切とは言えないのだが、一瞬で物語の空気のようなものをリモコンのスイッチで「冷房」とか「ドライ」と設定するかのように、“ピッ”で世界を変えてしまう。説得力でもなく物語力とでも言おうか。そしてこの作家の書くことに一切の疑いを持つことなく、物語の世界と呼吸を合わせるかのようにページを一枚一枚とめくってしまう。サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」を読んだ時のように、よくわからないのだけれど、閃きのような悟りのようにやってくるメッセージには、「この作家の書く物語をもっと読みたい」と、誰にするでもなく宣誓するのであった。

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