私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.23

『サード・キッチン』白尾 悠 河出書房新社

TSUTAYA BOOKSTORE 渋谷スクランブルスクエア 岡庭志帆

『サード・キッチン』白尾 悠 河出書房新社

母子家庭で育った主人公・尚美が成績オールAを条件に、ある支援者によってアメリカの大学へと留学を果たし、そこでの学びや出会いを描いた青春物語。
タイトルになっている「サード・キッチン」とは、学生が共同して運営している食堂のことで、彼らはここをマイノリティ学生のための“セーフ・スペース”と標榜している。

 

 読み終えた後、こんなにも「大事にしたい」と感じた本は初めてだった。
拙い英語のせいで周りに馴染めず、居場所がないと孤独を感じている尚美の姿に胸が痛み、そんな彼女を温かく受け入れるサード・キッチンのメンバーたちの優しさに私自身も救われたような気持ちになった。
 人種差別やLGBTQ、経済格差といった様々な問題を、戸惑いながらも彼女なりに悩み考え、時には傷つきながらそれでも前に進もうとする姿に勇気を貰えるのと同時に、差別や偏見の目は無意識ながらきっと誰しもが持っており、それによって誰かを傷つけてしまった時に初めて気づくものなのだということを思い知らされる。

相手のことを「知りたい」と思う気持ちは、自分と異なる存在を認め、歩み寄ることへの第一歩であり、そこから人と人との繋がりは強くなっていく。留学経験があるなしに関わらず、沢山の人に手に取って欲しい一冊。

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