私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.21

『無貌の神』恒川光太郎 KADOKAWA/角川文庫

崇文堂書店 鈴木七海

『無貌の神』恒川光太郎 KADOKAWA/角川文庫

恒川光太郎氏のダークファンタジー短編集。気付けば恒川ワールドに引きずり込まれ、ページをめくる手を意識せずとも一気に完読してしまいます。まずその不思議な雰囲気にどっぷりと浸かってしまうのです。作者は一体どのような目線でこの世界を捉えているのだろう?と私は疑問に思いました。人間が住む世界と、そうではない者が住む世界。光と闇。表と裏。それらが交わった時に魅せる描写が神秘的で美しい。恒川氏の描く物語は、決して全てがハッピーエンドではありません。しかし何故だか後味が悪くない。読んだ後に自問自答してみるのです。結局この後はどうなるのか?果たして終わり方はこれで良かったのか?掴めそうで掴めない、そんな幻妖な世界に文字を通して触れることで、何かふわふわとした感覚が胸に残ります。恒川氏の創造する妖しくも魅惑的な領域に一歩足を踏み入れたなら、その初めての情調に心が強く揺さぶられること間違いありません。

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