私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.16

『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』松永良平 晶文社

リズム&ブックス 鈴木健司

『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』松永良平 晶文社

僕はレコード屋さんが書く文章が好きだ。音を言葉で表現する事ができる彼らのおかげで、時代や国境を越えた多くの音楽に出会うことができた。著者である松永さんはレコード屋さんでもあるが音楽ライターでもあるから、より言葉を大事にされている人だと思う。

この本は、松永さんの「平成」という31年間を描いた青春回想録である。あるいは「ぼくの平成」という31曲入りLPレコードについて書かれた長い長いセルフライナーノーツのような1冊だ。

大学7年生、バイト、喧嘩、派遣、工場、冷凍イカ、高利貸し、といった言葉が出てくる序盤の生活は厳しいのだが、文章を書き続けること、音楽の近くにいることはずっと変わらずそこにあった。その後の少しずつ好転していく流れの中で、最重要な点は「出会うこと」だったのではないだろうか。それも音楽の現場へ行く、書く、を続けることが、そのきっかけになっていたように思う。続ける、はやはり大事なのだ。

ここに描かれた、たくさんの(驚くような)出会い、いくつかの悲しい(寂しい)別れ、アノ人と交わした会話、そこで流れていた音楽、そして平成最後の日のぐうぜん(NY)。この本を開くことで、それらに出会うことが出来た僕はいま元気です。

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