私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.13

『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』滝口悠生 NUMABOOKS

青山ブックセンター本店 青木麻衣

『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』滝口悠生 NUMABOOKS

 世界各国から作家が集まってアイオワで約10週間過ごす「インターナショナル・ライティング・プログラム」に選ばれた滝口悠生さんが日々の出来事や変化、感じたことを日記形式でまとめた1冊。プログラムに集められた作家たちは27か国28人でほとんどお互いを知らないまま出会っている。それぞれ小説家や詩人、エッセイスト、編集者、翻訳家、劇作家など肩書きがばらばらで、共通語で話している英語にも訛りの激しい国があるため、コミュニケーションから苦難の日々である。

 滝口さんは自分の言語力の乏しさから、彼らを理解することが最初はできなかったが、一緒にご飯を食べたり、誕生日を祝ったりと時間を重ねることによって、ようやくその人の一部を知ることができた。このプログラムが終わって離れ離れになると、今感じている多くを忘れてしまうが、日記にその日その日のことを書き留めることで、「その日」をどうにか取り戻すことができるのだ。音楽や匂い、料理の味で五感を刺激することで思い出す記憶もあるが、日記のように文章でしか思い出せない思い出もたくさん詰まっている。

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