私のBunkamura文学賞

推薦書籍

No.10

『毎日写真』鷹野隆大 ナナロク社

NADiff a/p/a/r/t 館野帆乃花

『毎日写真』鷹野隆大 ナナロク社

写真と言葉。それはどちらも現実を受け取り、組み立てる術であり、言葉が1枚の写真の意味を左右することもあれば、写真によって言葉がもつイメージを膨らませもするし、限定してしまうこともある。それぞれの伝達力にとても敏感な写真家には、魅力的な文章を書く人が多い。写真家・鷹野隆大さんのエッセイ集『毎日写真』は、鷹野さんが写真と言葉、2つの言語を意のままにする写真家のひとりだと確信する1冊だ。

収録されているエッセイのひとつ、「実録、ある日の27分間」は、喫茶店での親しい人物との会話の最中にある、相手の仕草や店内の客のようすを描写しており、その情景描写はまるで、1枚1枚の写真が目の前に浮かぶようだ。シャッターを切れなかった出来事を書いた「14時15分、西巣鴨」や「21時50分、池袋」からは“撮れない”ということから写真について向き合う、鷹野さんの写真論がうかがえる。最初に、「意のまま」と言ってしまったが、鷹野さんの写真と言葉からは、「意のまま」とは正反対な「逡巡」という印象を受ける。シャッターを切る、ものを書くということは、何かを断定することである。鷹野さんはその断定を先延ばしにし、煮え切らないままにし、渋る。言い切ること、わかりやすいことが、求められてしまう世の中で、「逡巡」を意のままする写真家。シャッターを切るのに、言葉を紡ぐのに、“他の何か”を常に潜ませる。それが鷹野さんの写真と言葉の魅力なのだ。

特典

NADiff a/p/a/r/tにて書籍をお買い上げの際に、「私のBunkamuraドゥマゴ文学賞」No.10のwebページ又は、Bunkamuraドゥマゴ文学賞メールマガジン2019年11月号をご提示の方、先着5名様にBunkamuraドゥマゴ文学賞オリジナル文庫用ブックカバー(非売品)をプレゼントいたします。

※実施期間:2019年11月19日〜2020年1月31日
※特典はなくなり次第終了となります。予めご了承ください。

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