私のBunkamura文学賞

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No.1

『フェルメール』植本一子 ナナロク社

ブックショップ ナディッフモダン
 飯塚 芽

『フェルメール』植本一子 ナナロク社

「真珠の耳飾りの少女」で知られるオランダの画家フェルメール。

この本は、現存する35作品を撮影するために写真家の植本一子さんが7か国にある17の美術館を訪れ、撮りためた写真と紀行文でまとめられた日記のような本である。

植本自身がつづった約3週間の撮影旅行の日記や作品を鑑賞する人々、美術館周辺の様子をとらえた写真などがふんだんに織り込まれている。

そのため読みながら各地を一緒に旅しているような気分に浸れる1冊となっている。

そしてよくこの手の絵画本にありがちな解説や美術史的な知識のうんちくがほとんどないため、まるで美術館にいる鑑賞者と同じ視点で、先入観をもつことなく絵を見ることだけにまっすぐに集中できる。

“この目で見たものを、ちゃんと写真に写せるだろうか。そう考える度に、わたしはフェルメールの何を写そうとしているのか立ちどまって考える。考えつつも手と目を動かして、フェルメールに近づく作業を続けている”-本文より抜粋

フェルメールのドラマのワンシーンを切り取ったような一瞬を光を巧みに表現しながらキャンバスに描き出したその臨場感。

それを撮りたくて植本が今回、失敗のないデジタルではなく、フィルムカメラでの撮影を選んだのもうなずける。

彼女の私的な印象を伝える写真と文章は、我々により自由に、純粋に絵と対峙することを伝えた…今までにない美術書のあり方を示しているといえよう。

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