今回の楽員インタビューは、2006年に入団、現在、第1ヴァイオリン奏者として活躍する宇根京子(うね きょうこ)さん。入団当初はオーケストラのレパートリーを増やすために“譜読み”に明け暮れる毎日だったとか。先ずは、近況からお聞きしましょう。

「最近は、オーケストラの中で随分“聴き方”が変わりました。今思えば初めはパート譜しか目に入っていなかったですね。今は以前に比べてだいぶ全体像が見える様になりました。音楽をつくる上で何が一番重要か?どうやってメロディを支えているのか?など、周りを聴きながら弾けるようになりました。弦楽四重奏など室内楽の活動も、オーケストラの中での演奏に役立っています。」

3歳からヴァイオリンを始めたそうですね。

「そうらしいですね(笑)、自分では記憶がないのですが。ピアノ教室を開いていた母に言われてスズキ・メソードで習い始めました。その頃から、みんなで弾くことが楽しくてアンサンブルが好きでした。
桐朋女子高等学校音楽科の受験に備えて、中学2年生から桐朋学園の子供のための音楽教室でソルフェージュを習いました。ちょうどその頃留学から戻られた中村静香先生に師事しました。高校時代はまわりが弾ける人ばかりで、ついていくのに必死でした。」

スイスのチューリヒに留学されます。

「ジョルジュ・パウク先生に師事するために、チューリヒ・ヴィンタートゥーア音楽大学のソリストディプロマコースに入学しました。留学前の大学在学中だったと思うのですが、ある日ふと気になって父親に『もし、私がヴァイオリンやめたらどうする?』って聞いたことがあるのです。何しろ3歳の頃からずっとヴァイオリンのために家族は大変な思いをしていたはずですから。そうしたら『別に、(京子が)幸せになるなら何でも良いよ。』という答えが返って来ました。それで気が楽になって俄然やる気になりました。スイスでの2年間が一番練習した時期です。パウク先生に破門されたくない一心だったのですが。」

パウク先生からは何を学びましたか。

「それまで大学では小林健次先生に基礎を徹底的に学びましたので、そのことを大切にしながらも、パウク先生からは演奏家として人前に立つ意識を教えていただきました。どうやってお客様に伝えるか、そのためのより豊かな表現方法を先生は実際に弾いて見せて下さいました。
常に“脱力”、これが留学時代に学んだ最も大切なことです。永遠のテーマですね。肩や、手、指の力を抜いて自らを自由に解放する。先日ゲストコンサートマスターでいらしていたライナー・キュッヒルさんもそうですね。なかなかそう簡単には真似できないのですが。いつもは後姿から学んでいますので、一度前から見てみたいと思っています。」

指揮者との思い出は。

「やはり、ブロムシュテット先生ですね。先日『幻想交響曲』の練習初日に、指揮している先生の手から何かが出ているのです。それで、思わず涙が出てきました。先生とオーケストラのみんなで一緒に音楽を作る、呼吸がひとつになった瞬間、鳥肌が立って叫びたくなるような瞬間でした。
ロストロポーヴィチさん、小澤征爾さんとコンサート・キャラバンで回っていた時も、同じような体験をした覚えがあります。」

※コンサート・キャラバン…世界的なチェリスト・指揮者のロストロポーヴィチと小澤征爾が、小さなオーケストラを率いて、学校の体育館、お寺の境内などに出向いて無料で開いたコンサート。

ところで、お休みの日は。

「いきなりお菓子作りです。クッキーを焼いたり、留学中に覚えたお料理をしたりもしますよ。」

好きな食べ物は。

「納豆です。地方公演に行くと、納豆が食べたい一心で各地を食べ歩きます。」

納豆の味は、土地土地で違うのですか?

「いえ、大差はないと思います。でも各地で美味しい納豆を見つけては写真に収めて、次の訪問の時に買って食べたり、お土産にしたりしています。」

ありがとうございました。