今回の楽員インタビューは、2010年入団、チェロ奏者として活躍する渡邊方子(わたなべ まさこ)さん。数々の素晴らしい先生との出会いによって、今の自分があると言います。
先ずは、チェロとの出会いから伺いました。

「5歳でチェロをはじめました。ヴァイオリンを趣味で弾いていた父が、姉にはヴァイオリンを習わせていたので、私には、同じ楽器ではアンサンブルが組めないと言ってチェロを持って来てくれたのです。とても嬉しくて、すぐに好きになりました。」

井上頼豊先生が、最初の先生ですね。

「たまたま、ご紹介いただいて、・・・まさか、レッスンしていただけるとは思いませんでしたので、今思うととてもラッキーでした。先生は、『僕は小さい子は初めてだけど、必ず1日2時間練習しなさい』と仰って。テクニックの基礎を徹底的に教わりました。齋藤秀雄先生の教えを忠実に、特に、左手の運指方法を細かく。高校を卒業するまで、ずっと、エチュードと音階ばかり。13年間師事しました。
 楽器を通して、人間としての生き方を学びました。井上先生の姿に、どこか、あのカザルスの姿が重なる様な気がして。」

次に、上村昇先生に。

「長野のアスペン音楽祭で出会いました。先生は京都にお住まいでしたが、東京にコンサートなどで出てきた際に見ていただいたり、コンクール前には、私が京都に行ったりして。井上先生とはまた違って、のびのびとした時間を過ごして面白かった。温かみのある包容力のある音でした。」

そして、アメリカに渡ります。

「本当は、ドイツに行きたいと思って語学も習ったりしていたのですが、・・・アルド・パリゾ先生のお弟子さんと東京で出会い、とんとん拍子で話が進んで先生のいるイェール大学音楽院に。
パリゾ先生は、自分にないものを開発してくれました。舞台に出る人間をつくるとでも言うのでしょうか、表現することは普段の自分と切り離すこと。細かいことにこだわらず、・・・小さい音でドアをノックすると怒られて、『そのドアをぶち破って入って来い!』と。自分の中にこもっていた音楽を、外に出せる様になりました。
 パリゾ先生の影響か、音楽に対するアプローチが変わりました。日本語のもつリズムとは異なる英語の表現の仕方、何と言っても気さくな性格。自分でこう弾きたいと思える様になりました。」

遂に、小さいころから憧れのシュタルケル先生に。

「もうお歳で、『もう学校に居ないで、早く演奏しに行きなさい』と、いつも追い出されそうになりながら、2年半毎週レッスンしていただきました。井上先生にちょっと似たルーツに戻ってくるのですが、シュタルケル先生は理論的で緻密で、それでいて、感情表現も豊かです。
 先生は、ご自身もシカゴ交響楽団やメトロポリタン・オペラのオーケストラで長年弾いていたので、レッスンの中でもオーケストラのたとえがとても多くて、いつしか、オーケストラに憧れる様になりました。」

帰国して、N響に入団します。

「先ず、オーケストラは物凄い数の楽器が大音量で鳴りますから、今何を聴けば良いのかという耳をもつこと、“聴く力”を身につけることが大切です。それから、みんなで弾く時の音色や、小さい音の作り方など、経験を重ねて行くしかありません。先輩の方々に、厳しくも優しく育てていただいています。
 チェロ・パートは、全員、誰がどういう音を出しているか、ひとり一人の音が分かるんですよ。そして、みんながどこに向かっているのか、指揮者が何を求めているのかを瞬時に判断して演奏します。上手く行った時は、達成感があります。オーケストラの醍醐味と言ったところでしょうか。」

オーケストラ以外の活動は。

「今は、N響の勉強をしっかりして、子どもが小さいので子育ての時間とのバランスを意識しています。家では、自分の演奏を聴かせたり、小さいチェロを触らせたりして。音楽が好きな子どもに育ってくれたらと願っています。」

ありがとうございました。