上海歌舞団の”舞劇”が再び蘇る!
舞劇とは、バレエや民族舞踊など、様々な舞踊表現を組み合わせ、台詞を使わずにストーリーを展開する、中国発祥の舞台芸術。
上海歌舞団は、多数の舞劇を創作し、アメリカやヨーロッパ各国でも公演を成功させている総合芸術団体。2005年には「舞劇『覇王別姫』~ある愛の伝説~」でオーチャードホールでの来日公演も行っている。主演ダンサーは中国国家から認められる一級のダンサーたち。
今回の「舞劇『朱鷺』-toki-」は、日本にもゆかりの深い鳥、朱鷺(トキ)を題材に、人間との儚い愛の物語を、古代・近代・現代と時空の越えて、壮大に描く。朱鷺(トキ)を表現する独特で繊細な首や指の動き、壮観の24話の朱鷺たちの群舞、優れた身体能力から生み出される迫力のダンス。そしてそれを彩る、美しい衣装や、物語の世界に引き込む音楽。すべての芸術表現が見事に融合された舞台を展開する。
時空を越え、国境を越え 語り継がれる 儚くも美しい 愛の物語。
高橋彩子(舞踊・演劇ライター)
薄絹のような羽衣をまとった朱鷺の精ジエが地上に舞い降り、青年ジュンと恋に落ちる……。中国上海歌舞団『朱鷺』は、「鶴の恩返し」「羽衣伝説」「白鳥の湖」「オンディーヌ」など、古今東西、人々を魅了してきた物語の系譜に連なる作品だ。初めは戸惑いながらも次第に心を通わせるジエとジュンの踊りは、瑞々しいときめきで溢れている。また、バレエ「白鳥の湖」2幕さながらの見事なフォーメーションを作る朱鷺の群舞は、まさに洗練の極み。光と色が繊細に移ろうパステル画のような舞台に、民族舞踊とバレエやモダンダンスを融合させた上海歌舞団の踊りが鮮やかに映え、観る者は桃源郷のような幻想美の世界に誘われる。
しかし本作は、単なる古(いにしえ)の恋物語では終わらない。ジエはジュンのもとを去り、時代は古代から、まず自然が破壊され荒廃した近代、さらに、朱鷺が絶滅状態にある現代へ。かつての麗らかな情景とは打って変わって、ここではシャープな動きに乗せて嘆きや苦しみが表現される。
1000年もの歳月の間、出会いと別れを繰り返しながら、次の時代・世代に引き継がれていくジエとジュンの愛。たとえ個体としての生物の命は尽きても、思いが繋がり、絆が深まり得る。そのことをかくも雄弁に示す舞台に、胸を打たれずにはいられない。観る者を深い感動に導く世界がここにはある。