2015.04.20 UP

【レポート到着!】西本智実×湯山玲子トークイベント

 指揮者の西本智実氏とさまざまなメディアで活躍する著述家・湯山玲子氏によるトークショーが開催された。本公演の目玉プログラムとして演奏されるレスピーギのローマ三部作について、その魅力をたっぷりと語り合おうというものだ。

 二人の出会いは湯山氏がライブハウスで定期的に行っている、トーク&リスニングイベント「爆クラ」(クラシック音楽をクラブ仕様の大音量で聴く試み)に、2012年に西本氏がゲスト出演したこと。
西本氏も敬愛するという日本を代表する作曲家・湯山昭氏を父に持ち、幼い頃からさまざまなジャンルの音楽に触れてきた湯山氏だが、レスピーギにハマったのはわりと最近で、「爆クラ」でゲームデザイナーの飯野賢治氏が紹介したことに始まるそう。
そ こで聴いたレスピーギに「イスから転がり落ちるほど感動」し、以来、「私の中でナンバーワンになった」のだとか。実際のところ、ローマ三部作といえば学生 の吹奏楽コンク―ル等で必ず演奏される定番中の定番の人気作品ながら、ことレスピーギという作曲家自身に関してはクラシックファンでなければ意外と知られ ていないというのはある。

 そこでまずトークでは、レスピーギの活躍した19世紀末から第一次世界大戦頃まで――音楽史的にはロマン派音楽から現代の感覚的表現へと移り変わる過渡期といわれる時代――の近代音楽の流れや特色、その中でのレスピーギの位置付けから紹介。
ロ シアでリムスキー=コルサコフに師事したレスピーギは、師の管弦楽法を継承し、その手法を完成させたとされる。なるほど、そこで得た土台のもとで、ローマ に戻ったのちにはイタリア古楽に回帰しながら自身のアイデンティティを生みだそうとしたのがレスピーギであり、ローマ三部作のあの極彩色華麗なオーケス トレーションこそは、その確立の姿なのだと納得。西本氏いわく、それはさながら「音の映画」だという。

「私はイタリアの 映画も好きなんですけど、たとえばフランシス・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』などでも教会のような聖なるものの後ろで殺人が起きたりといった見せ方 をしますよね。そういう感じでレスピーギは違うテーマであったり、メロディー、リズムと、全然異なる音楽を同時に出してきたりする。ある意味、映像を“音 化”した感じ。いろいろな要素が一緒に聴こえてきて、それらが全然ぶつからずに不思議な感覚になる。いろんな空間を同時に感じることができる。その多調・ 複調の多用が、私はすごく好きなんです」(西本氏)

「「ローマの噴水」(三部作の第1作)からそうい うところがありますよね。映画に慣れている私たちのファミリアというか。グーグルアースになった瞬間、カメラがガッと寄ってきて、美女の顔が大写しになる みたいな、それほどのダイナミズムがある。その一方で、(いろいろな音楽が聴こえて)あちこちしてるんですけど、交響詩として全体的に大きな物語を作れて いるところがすごい」(湯山氏)

「実はフォーム自体は全然新しいことをしていないんです。だから逆にあそこまで暴れるというか、範囲を広げても、フォームがちゃんとしているので作品としてすごく落ち着き所がある。なおかつ羽ばたいているという」(西本氏)

 その集大成ともいうべき「ローマの祭り」を何番目に演奏するのかは現在熟考中だそうだが、終盤に待ち受ける極めてドラマティックな「混沌の渦」(湯山氏)に客席で巻き込まれることが楽しみになってくる。

  ちなみに、西本氏の師であるロシアの巨匠イリヤ・ムーシンは、レスピーギが多大な影響を受けたリムスキー=コルサコフの孫弟子にあたるそう。そのムーシン のもとロシアで研鑽を積み、世界へと羽ばたいた西本氏は、2013年、2014年と2年連続でヴァチカン国際音楽祭に招聘され、昨年ヴァチカンの音楽財団から名誉賞を授与されたばかり。その流れの中で今回奇しくもレスピーギの上演に至ったこの縁も、音楽の神の導きだろうか。

 「ローマ三部作を 一気に演奏するというのは意外とないことなんです。演奏会の前にもし皆さんがCDで聴いてみたいなと思った時に、先ほどお話したようにいろいろな歌がたく さん入っているという、その意味が解れば、音楽がより立体的に聴こえてきます。ただ、スピーカーで音楽を聴くと迫力はあるんですけど、生の良さは生でしか 味わえませんし、(劇場では)音で立体的にいろいろな空間を作っていきたいと思いますので、ライブでそれを創っている現場にぜひみなさんも参加していただ ければと思います」。

クラシック音楽は人生を豊かにしてくれる、そしてそこには生きていくためのさまざまなヒントもある、と西本氏と湯山 氏は語る。だからこそ、たとえば食べ物に対して「これが好き」と誰もが自分の意見を持っているように、クラシックに対しても臆することなく自分の感性で、 自分の言葉をもって聴いてほしい、とも。ぜひ今回の演奏会では、まっさらな心で西本氏がイルミナートフィルと紡ぐ音の世界に身をゆだねてみてはいかがだろう?

(文:石井三保子)