山田和樹 マーラー・ツィクルス

TOPICSトピックス

2014.11.07 UP

Column:1 多様な内容を含む「世界」としてのマーラーの交響曲

グスタフ・マーラー(1860~1911)は世紀転換期ウィーンを代表する作曲家であり、よく知られているように、その創作のレパートリーは歌曲と交響曲を中心としている。

 

中でもマーラーの交響曲は、第1番から第10番と番号を伴わない《大地の歌》を合わせて全11曲ある(うち第10番は未完に終わっている)。

彼の交響曲といえば、何といってもその壮大なスケールであろう。第1番と第4番を除けば演奏時間は1時間を超えるものばかりだ。またどの曲も、オーケストラは3管編成(管楽器奏者が各パート3名ずつ)を上回る。そしてその楽器編成や曲全体の規模の大きさにより、豊かな内容を持った音楽が作り出されている。

  

マーラーの交響曲の大きな特徴としては、まずその多彩な音色が挙げられよう。

例えば、第1番の第3楽章では葬送行進曲の旋律が様々な楽器によるカノン(同じメロディが異なるタイミングで複数のパートに現れる)で展開される。また第2番から第5番では、1つの長いフレーズの中で数小節おきに楽器が変わる場面がある。これはウェーベルン(1883~1945)の音色旋律という手法の先駆けといえよう。

さらに従来の交響曲では用いられなかった楽器の使用も大きな特徴である。

第3番の第3楽章では舞台裏でのポストホルン(郵便ラッパ)のソロが、のどかで且つ神秘的な雰囲気を作り出している。また第6番ではカウベルや低音の鐘、ハンマーなどおよそ楽器とは呼べないものを用いて批判の対象となった。第7番ではギターやマンドリンがエキゾチックな効果を生み出している。

 

マーラーの交響曲の響きを豊かにしているのは音色だけではない。

彼の交響曲では、様々な性格の旋律が突然並べられることによって、劇的な効果をもたらすのも大きな特徴である。

例えば第1番第1楽章の序奏部分では4度下行の動機やファンファーレ、コラール風の旋律や低音の半音階的な旋律、といった具合に多様な要素が次から次へと入れ替わる。また同じく第1番の第3楽章では重苦しいカノンや陽気な旋律、ゆったりとした民謡風のモティーフによる対比が見事に1つの楽章を形成している。

そしてこのような多様な性格の内包は1つの楽章内にとどまらず、交響曲全体を構成する要素ともなっているのである。その良い例が第5番であろう。この曲は荘厳な葬送行進曲に始まり、荒れ狂うソナタ楽章、明るく決然としたスケルツォ、そして妻アルマへの愛を表したと言われる甘美なアダージェットを経て最後は軽快なロンドで閉じられる。

 

マーラーは交響曲第3番の創作時にこの曲を「多様な内容を持った世界」であると述べ、また後年になってシベリウス(1865~1957)との会話の中で「交響曲はすべてを包み込む世界でなければならない」という言葉を残している。このような「世界」を作り出すという彼の音楽観が、多様な性格の変化や豊かな色彩を作り出したのではないだろうか。

 

(文・佐野旭司)