5年前、松尾スズキが初めて挑戦したミュージカル。大人計画や松尾スズキ作品常連の俳優たちが醸し出す猥雑な雰囲気と、テレビなどで活躍する俳優たちのパワーがぶつかりあい強烈な印象を与えてくれた。そして今回の再演。演出や音楽のアレンジなどが、よりわかりやすく変化し「キレイ」の“核”となる部分がストレートに心に響く。改めて作品の世界観に触れた気がして、懐かしいと同時に新鮮な気持ちになった。

忌まわしい過去を地下室に置き去りにし、現実の世界に飛び出したヒロイン・ケガレ。自分の身体の重さの分だけ小銭をためることを目標に、たくましく日々を前進していく。そのケガレの一生懸命生きる姿を、鈴木蘭々が体当たりで演じている。成長したケガレであるミサを演じるのは高岡早紀。目標を失い、それでも生きて行かなくてはならないミサの不安や戸惑いを高岡は細やかに表現する。鈴木と高岡が発する雰囲気は対照的でありながら、劇中ふと寄り添う瞬間があり、新たなヒロイン像が出来上がっているような気がした。今回、松尾スズキ作品初参加となった岡本健一。舞台経験も豊富な岡本は松尾ワールドにもすんなりと溶け込み、場面ごとに新たな顔を見せてくれる。橋本じゅんはダイズ丸という人間でない役を、誰よりも人間臭く演じていた。大浦龍宇一は正面からジュッテン役に取り組み、その真面目さが時におかしさを誘う。初演ではジュッテンを演じ、今回はマジシャンを演じる宮藤官九郎は“一見、普通なのに異常である恐さ”で観客に迫った。阿部サダヲ、片桐はいり、秋山菜津子、松尾スズキほか初演からの続投組は、5年たった深みを感じさせる完成度の高い演技を見せてくれた。

劇中に散りばめられた、いくつもの過去が“回収”され大きな現在へとつながっていく「キレイ」の世界。透明感があり、それでいて体温のある鈴木蘭々のラストシーンでの歌声は、その全てを昇華させるパワーを持っている。
text by 山下由美(フリーライター)
photos by 谷古宇正彦


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