高山:ちょうど昨日、みんなでセルリアンタワー東急ホテルのレストラン「クーカーニョ」におじゃまして、今回の展覧会の企画として創作していただいたお料理をいただいてきたんですよ。手書きのメニューの絵もかわいいし、お料理も見た目にも美しくておいしくて、とても楽しませていただきました。
曽我部:そうですか、それはありがとうございます。あのメニューの絵は私が描いているんですよ(笑)。実は、こういう形で展覧会とコラボレーションをするのは初めてなので少し不安もあったのですが、そう言っていただけると本当に嬉しいですね。
宮澤:“フランス料理”と言ってもフランスの南の方、いわゆるプロヴァンスってことですよね。やはり料理はパリなんかと比べると違うんですか?
曽我部:ええ、違いますね。プロヴァンス料理というのは、もともとは本当に素朴な料理なんです。ですから、私どものレストランはホテルのメインダイニングでもありますから、そのままお出しするのではなく、いろいろと工夫を凝らしています。
今回の企画で難しかったのは、そういうフレンチ・レストラン「クーカーニョ」という位置付けや、セルリアンタワー東急ホテル自体のコンセプトもしっかりとある中で、自分がやってきた方向性の料理を、この印象派展とどういう風に結びつけるか、ということでした。それでいて食材やお料理の考え方は南フランスに反さない、ということも忘れたくなかったですしね。
例えば、メイン・ディッシュには豚のフィレ肉とフォアグラを合わせましたが、ここにレモンのソースがかかっているんですね。このソースはレモンに岩塩の荒いのを詰め込んで半年間塩漬けにしたものなんですが、発祥は北アフリカです。北アフリカというのはフランスの植民地でしたから、こういう経緯で入ってきた技術も取り入れてみたんです。
さらに、今回の展覧会の開催期間が3月から5月にかけてじゃないですか。いろんな要素を演出しながら、その中で季節感も出して、皆さんに受け入れていただける味で、しかも3ヶ月間続けられるメニューというのは、もう本当に…(笑)。
宮澤:大変だったと思います(笑)。3月から5月までだと旬の食材も変わってしまいますものね。
海老沢:でも頂いたお料理は本当に色彩豊かで、印象派の絵画を見た時と同じようなやさしさや鮮やかさを感じました。
曽我部:配色にはもちろん気を配っていますけれど、最初にふっとひらめいたのは、“光”なんです。もともと、ただ単に絵を料理に置き換えようという気は無かったので、印象派の人たちが表現してきたものを自分の中に取り入れて、どういう風に料理として形にしようかな、と考えていたんですね。南フランスの光というのは日本とはやはり違うんです。同じ太陽なんだけども、空気が違うせいなのか周りの環境が違うせいなのか、感じ方が全然違う。そういう感覚を自分の体験として持っているんですよ。だから、あの時感じた“光”を原点にして料理にしていけば、これはやれそうだと。
宮澤:実際、お料理を拝見した時に、直接的に絵と似ていないところが嬉しかったですね。でも、随所にこだわりが感じられて、印象派のエッセンスは十分伝わってきました。
曽我部:もちろん見た目だけではなくて味にもこだわっています。例えば色のことだけを考えるなら、ただ単にソースの素材に色素を入れていろんな色を作る、ということをやれば簡単にできるでしょう。でも僕はそういうことはやりませんでした。ソースに関して言えば、今回は先ほどお話したレモン・コンフィ・ソースに加えて、赤ピーマン、バジル、ヴィンコットという4つのソースを用意し、それぞれの料理に合わせているんです。
印象派をモチーフにしていれば何でもいいわけじゃなくて、料理として成立するのが何よりも第一ですよね。その後に南フランスの要素が入っているか、見た目が美しいか、今回の印象派展のイメージに合致しているか、という最低でも4つの条件をクリアしないと成り立たないと考えて臨みました。
中根:僕はまだ料理をいただいていないのですが、パンフレットのお料理を拝見して、お話を伺っているだけで楽しくなってきますね。しかし、お話を聞けば聞くほど、やはり絵と料理というのは、文化として共通点があるし、企画として相性がいいんだなあと感じました。
曽我部:文化という意味では、料理の分野においてフランスと日本ではかなり違いますよ。
例えば、日本では野菜の“アク”を抜くために、食材を水にさらす等の手間をかけますよね。でもフランスでそれをやると「なぜ、下処理の段階から旨みを抜くんだ」となるわけです。あと、日本は包丁の文化だから、調理場では包丁を握る人が一番えらい。その次が煮方。そして焼き方。でもフランスでは一番大事なのは煮込む人なんです。そもそも刺身のように“食材を切るだけ”の料理は、料理として認めていないようなところがあるんですよ(笑)。まあ、最近はお互いの国をたくさんのシェフが行き来していますから、そうでもないけれど。