国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア

Tretyakovトレチャコフ美術館とは

© H. Iwakiri

ロシア美術の殿堂、国立トレチャコフ美術館は12世紀の貴重なイコンに始まる約20万点の所蔵作品を誇っています。この膨大なコレクションは、創設者パーヴェル・トレチャコフ(1832-1898)によって基礎が築かれました。モスクワの商家に生まれたトレチャコフは紡績業で多額の財を築き、利益を社会に還元しようと数多くの慈善事業を行いました。

続きを読む

とりわけ生涯をかけて取り組んだのが「ロシアの芸術家によるロシア美術のための美術館」、それもあらゆる人に開かれた公共美術館の設立だったのです。鋭い審美眼の持ち主であったトレチャコフは、当時のアカデミーの潮流のみに囚われず確固とした信念に基づき40年にわたってコレクションを充実させていきます。なかでも彼は熱心に同時代の芸術家の作品を収集、レーピン、クラムスコイ、ペローフなどの芸術家との親交も厚く、彼らの支援にも努めました。トレチャコフは1880年代から自宅の庭に建てたギャラリーでコレクションの一般公開を始め、1892年には亡くなった弟が収集していたヨーロッパ絵画と併せてコレクションをモスクワ市に寄贈しました。彼の死後、住居も展示室へと改装されて、ワスネツォフの設計による古代ロシア建築様式の豪奢なファサードが建てられ、20世紀初頭には現在のような姿になりました。ロシア革命後、国に移管されたトレチャコフ美術館は、その後も美術品の収集を続け、質、量ともに第一級のロシア美術コレクションを世界に誇っています。

Messageメッセージ

「国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア」に向けて
ゼリフィーラ・トレグーロワ館長からのメッセージ

「人間の素晴らしさと深い精神世界を伝える」

© H. Iwakiri

このたびロシアの貴重な絵画作品を日本の皆様にご覧いただけることを大変嬉しく思います。
トレチャコフ美術館は、10年ほど前に今回と同じBunkamura ザ・ミュージアムで絵画展を開催しましたが、日本のファンの方々がとても熱心に作品を鑑賞される姿を拝見し、今回の展覧会では、何が一番鑑賞者の心に響くかということを考え、常設展示されている作品から、当時のロシアの画家の目でどのようにその時代が見えていたかをご覧いただける作品を選びました。

続きを読む

ひとつは、ロシアの移動派の画家の1870年代からの作品です。更にいわゆる新しい時代、つまり20世紀初頭に特に印象派の手法を使って制作していた画家たちの作品をご紹介します。少し前は、ロシアのアヴァンギャルドの絵画が非常に人気がありましたが、現在はローマやパリ、ヘルシンキなどの主要美術館から展覧会開催を打診されるなど、移動派の作品への注目度が高まっています。よって日本の方々には人気があるクラムスコイの「忘れえぬひと」をはじめ、風景画で名高いイワン・シーシキンの作品もご覧いただきます。どちらも本館を代表する作品ですので、きっと満足されることでしょう。

もうひとつは、日本の皆様に当時のありのままのロシアをお見せしたいと思っております。宮廷生活を描いたものではなく、ごく普通の日常生活、自然、人々の姿形から、ロシアが当時どのようであったかを、これらの絵画作品を通して知っていただきたいのです。作品の中の空気、風、光、そして人間関係を通じて、人間の素晴らしさと深い精神世界を伝えることができる作品を選んでお送りしようと思います。クラムスコイやシーシキン、レヴィタンと言った画家は特にこうした題材への関心が高いため、今回の日本展では彼らの最も有名な名作のなかでも選りすぐりをご覧にいれます。

日本の美術愛好家の方々にこの展覧会を楽しんでご覧になっていただき、20万点以上の絵画作品が収蔵されているモスクワの本館へもぜひ足を運んでいただきたいと思います。

国立トレチャコフ美術館 館長 ゼリフィーラ・トレグーロワ