ミュージアム開放宣言

今月のゲスト:福本ヒデさん@「リバプール国立美術館所蔵 英国の夢 ラファエル前派展」


ID_047: 福本ヒデさん(芸人/ザ・ニュースペーパー)
日 時: 2016年2月3日(金)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム上席学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、海老沢典世、佐藤友里江)

PROFILE

1971年生まれ。ニュースを題材にコントを仕立て、政治、芸能、スポーツなど、あらゆる社会現象を“笑い”に変えてユニークな舞台を届けている社会風刺コント集団『ザ・ニュースペーパー』の一員。幅広い役作りで様々な政治家キャラを演じ分け、主力メンバーとして数々のコントを手掛ける。また、個人としてもソロステージやラジオのパーソナリティとして多方面で活躍する一方、作家としても作品を制作し、毎年「文化人・芸能人の多才な美術展」に出品している。

http://www.t-np.jp/


『英国・若者たちの夢』


今回のミュージアム・ギャザリングは、社会風刺をテーマに活動されているコント集団「ザ・ニュースペーパー」のメンバー、福本ヒデさんにお越しいただきました。

海老沢:福本さんは、前回の『ウィーン美術史美術館所蔵 風景画の誕生』展を取り上げていただいたテレビ番組で、弊館の学芸員と一緒にご出演いただいたんですよね。

福本:ええ、そうです。個人的にアートは好きなので、展覧会もよく見にいくんですが、学芸員の方に説明いただきながら見るのは初めてだったので、一人で見るのとはまた違った視点を得たり、より深く理解できたりして、本当に楽しかったです。あんまり楽しくて、その時に教えていただいた『風景画の誕生』展の魅力を、自分のトークライブでも勝手にお話しさせていただいたぐらいです(笑)。

海老沢:ありがとうございます(笑)。そういう方がいてくださると本当に嬉しいです。

福本:僕らは世の中のニュースをテーマにしたコントをやっていますが、誰もが知っている有名な絵を使ったネタもたまにやるんです。例えば、ミレーの《種まく人》のようなパネルを作って、そこに政治家の顔を入れて“金まく人”みたいな(笑)。美術館は僕らがやっているような舞台と違って、会期が長くていつでも行けますし、必ずしも事前にチケットを取る必要もない。絵を見るのが好き、っていうと何かかっこつけているように思われることもありますが、美術館って実は気軽に入れる場所だし、そこがすごくいいと思います。

海老沢:特にザ・ミュージアムの場合は、渋谷というにぎやかな街の中にありつつ、ゆっくりと絵を見ながら自分との対話も出来るということで、都会の喧騒から離れてホッとしたい、というお客様もいらっしゃいます。毎回、展覧会に合わせて、会場の雰囲気や装飾、ソファーのカバーなども変えているのですが、今回も好評をいただいていまして、一日中会場にいてご覧になっている方もいらっしゃいます。

福本:一日中はすごいっ(笑)。でもたまに、展覧会の会場の最後の方で疲れちゃっている人いますよね(笑)。絵を見るのにはりきりすぎて(笑)。実際、あんまり頭を使いすぎると疲れます。でも、どんな展覧会でも、必ず自分が好きな絵、心に引っかかる絵がある。それって、何か新しい友達が出来たような感覚なんですよね。だから、しっかり絵に集中して見ることも大事ですが、もっと気楽に自分を見つめ直したり、自分の考えを広げたり、そういう時間を持つのも美術館ならではの楽しみ方だと思います。

海老沢:前回、学芸員との観覧を楽しんでいただいたようですので、ミュージアム・ギャザリングは通常、お一人でゆっくりとご覧いただいた後に、私たちと一緒にお話をさせていただくのですが、今回は、まず一人で、その後に、学芸員の宮澤の説明を交えてご覧いただく形にさせていただきました。

福本:一人で自由に見るのも楽しいし、説明を受けながら見るのも、また違った見方が出来ていいですよね。特に今回の展覧会では、一枚の絵の中にいろいろな技術や物語が凝縮されている感じがあるので、説明を受けて理解できることも多かったです。

佐藤:おっしゃるとおり、それぞれの絵に表現されている内容が濃密ですよね。今回の展覧会では、お客様が一つの作品に割く時間も長くなっていると思うんです。だから大げさではなく、会場で一日過ごされる方もいらっしゃるんだと思います。

宮澤:ただ、開催する側としては、それぞれの作品にどのくらいの量の説明をつけるかというのは非常に難しい問題なんですよね。説明が足りなくてもいけないし、多すぎても読むだけで疲れちゃう。ですから、各作品の説明パネルや音声ガイドの内容や時間はいろんなバランスを考えて作っています。そもそも“ラファエル前派”といってもわかりづらいですよね。それまでの美術の潮流を作ったのがルネサンスの巨匠・ラファエロで、ジョン・エヴァレット・ミレイ、ウィリアム・ホルマン・ハント、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの3人は、そういう古典的な考え方じゃなくて、もっと自分たちなりの考え方で、素朴な対象やありのままの自然を克明に描こうと芸術運動を起こした。そういう流れを知らない方にも、展覧会に興味を持っていただけるように、「英国の夢」というタイトルをつけたんです。

福本:確かに“ラファエル前派”ってわかりづらいと思っていたんですが、会場で絵を見ながら説明していただいたことでよくわかりました。でも、そういう背景を知らなくても、それぞれの絵に迫力があって楽しめますよね。若い芸術家たちの心が入っているというか。僕は舞台をやっていますが、基本的にはコントなので笑いを取ることも必要なんですが、やっぱり迫力を大事にしているんですね。ただ大声を出したり、派手に振舞ったりということではなくて、どんな状況、どんな場面でも常に迫力を出すという気持ちを持っているので、それがすごくリンクしました。

中根:特に舞台は“ライブ”ですから、その時、その場所で、どれだけ迫力を出せるかがものすごく大事なんでしょうね。それによって風刺やユーモアがお客さま伝わって、見る側も心を動かされる。

宮澤:“ラファエル前派”に関して言えば、フランスと比較するとわかりやすいですね。同時代にフランスで起こっていた芸術活動は印象派なんです。抽象的なテーマというよりは、戸外や田舎に行って光や風景を描きましょうというのが主流。だから物語や神話を主なテーマとしたラファエル前派の画家たちとはかなり違いますよね。これはやはり国民性の違いが大きいと思います。ラファエル前派の場合、キーワードはやはり“ガーデニング”と“シェイクスピア”。こんなにお花を描いている画家ってフランスにはいないですよ(笑)。アンリ・ファンタン=ラトゥールのような例外もいますけど、結局絵が売れていく先はイギリスですから。あと、イギリスの画家たちは観客の眼を意識しているところがあると思うんです。ミレイの《ブラック・ブランズウィッカーズの兵士》で描かれている女性の白いサテンのドレスの質感にしても、見る者を圧倒しますよね。それに比べるとフランスの画家は、自分たちが描きたいものをとことん突き詰めていく感じがあります。

福本:それすごくわかりやすいですねっ。観客の眼を意識しているってまさにその通り。僕たちは舞台で演じているので、ある程度観客のことは意識しますが、彼らも割りと似たような感覚で描いていたのかもしれない。そういう気持ちがあるから、絵から迫力がしっかり伝わってくるんでしょうね。

中根:確かに映画でもそうですよね。フランス映画は映像表現やストーリー展開にしても、作家の個性が前面に出ているものが多い気がします。観客がどう思うかは気にしていない、みたいな(笑)。

福本:印象派の人たちと比べても、従来の古い価値観を持った人たちを敵に回すような活動とはまた違いますよね。ミレイもアカデミーに戻ってきますし、アカデミーもそれを受け入れる。だから若者三人が芸術活動のために立ち上がって革命を起こす、というような過激さは感じられない。もう少しゆるい感じ。今回は、ホントにフランスの文化や国民性と比較することでより展覧会が楽しめますね。

  次へ


ページトップへ
Presented by The Bunkamura Museum of Art / Copyright (C) TOKYU BUNKAMURA, Inc. All Rights Reserved.