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今月のゲスト:廣川玉枝さん@「レオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想」展


ID_042: 廣川玉枝さん(ファッションデザイナー)
日 時: 2012年4月24日(火)
参加者: 福井武さん(SOMA DESIGN ヴィジュアルクリエイター)
宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム チーフキュレーター)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

Brand Profile SOMARTA/ソマルタ Desiger 廣川玉枝/Tamae Hirokawa
2006年廣川玉枝のデザインプロジェクト「SOMARTA」として立ち上げる。
2007年春夏より東京コレクション・ウィークに参加し、"身体における衣服の可能性"をコンセプトにボディウエア「Skin」を発表。美しいレースのグラフィックや構築的なドレスウエア、アクセサリー感覚で完成度の高いアートピースはもとより、サウンドや映像表現を駆使したファンタジーでドラマティックなコレクション展開が国内外で評価を得ている。2007年 第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。
2008年4月 Milano Salone 2008 Canon[NEOREAL]展にてインスタレーション作品「Secret Garden」及び「ENGRAVER」を発表。同展覧会にてインテリア家具「Skin+Bone Chair」を発表。同年10月DESIGNTIDE TOKYO 2008にて、TOYOTA のマイクロプレミアムカーiQとのコラボレーション[iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展を開催し、コンセプトカー及びインスタレーション作品を発表。2011年 資生堂創業の地に新しくオープンした総合美容施設「SHISEIDO THE GINZA」ビューティーコンサルタントの制服を手掛ける。

「SOMARTA / ソマルタ」の語意は、サンスクリット語で蓬萊の玉の枝から生まれ出る不老不死の甘露"AMRITA(アムリタ)"と、ラッキーチャームである"SOMA(ソーマ=月・月神・アムリタの別名)"との掛け合わせ。

「Skin Series」 "身体における衣服の可能性" をコンセプトに、ソマルタがデビューシーズンより提案する無縫製編機によるボディニットシリーズの総称。柄の美しさはもとより身体のラインやパタンの表現を計算し、プログラミングにより編み設計されている。近年はLady GAGAがそのボディウエアを公私ともに着用し、注目を集める。

SOMARTA HP http://www.somarta.jp/


『現代に蘇る《ほつれ髪の女》』


高山: 今回は、《ほつれ髪の女》をインスピレーションソースに発表した2012秋冬コレクションのINVITATIONカードにもなったオリジナルグラフィックスによるTシャツやトートバッグで展覧会とコラボレーションしていただいた、ファッションブランド「SOMARTA」の廣川さんと福井さんにゲストに来ていただきました。よろしくお願いいたします。この展覧会は、静岡、福岡に続いて3会場目として東京に来た巡回展なんですが、お二人は静岡での展示もご覧いただいたそうですね。

廣川: そうなんです。コラボレーションのお話をいただいた後に、偶然静岡でお仕事があって、静岡市美術館まで足を伸ばして拝見しました。Bunkamuraでは同じ展示作品でもまた違った雰囲気で見れて楽しかったです。展覧会の装飾は展示会場によって違うんですね。

宮澤: それぞれの会場でいろいろと趣向を凝らした工夫をしていましてね、うちでは背景の色が白・緑・赤とイタリアの国旗のカラーになっています。とはいえものすごく主張をしているわけではないので、最初すぐにはわからないと思うんですが、展覧会を見ているうちに気づいてくだされば嬉しいなと。

高山: Bunkamuraでは、展覧会の内容に合わせて、会場装飾やデザインを毎回変えているんです。「SOMARTA」さんのファッションショーや展示会でも同じだと思うんですが、作品の世界観を伝えるために場の雰囲気作りってとても大切ですよね。特にうちは、渋谷という街の雑踏を歩いてきていただいた先にある美術館ですので、会場内はもちろん、エントランスにも工夫をして、日常から非日常への橋渡しになる演出ができればと思っています。

廣川: 私たちの提供するものは衣服だけでなく映像や音楽、空間など様々な要素を含みファッションと捉えていますから、やはり毎回テーマやコンセプトはしっかり考えます。今回の展覧会もテーマを表現するために細部までよく作りこまれているのが伝わってきました。

高山: ダ・ヴィンチが描いたと言われる作品は十数点しかありませんので、こういう展覧会では、どうしてもお弟子さんや周辺人物の作品も多くなるんですね。それでも今回は本当に貴重な作品も含まれていますし、これだけの展覧会を実現できて嬉しいです。

福井: でも、例えば絵の展覧会の場合は、実際に作品が到着するまで見られないわけですよね。そのあたりは大変じゃないですか?

高山: そういうことが多いですね。今回は静岡で先に展覧会があったので見ることができましたが、巡回展の場合でもほとんどが東京からスタートしますし、通常は実際に現地に行って見たりもします。

福井: 額装の額なんかも現地での展示と同じなんですか?それともやっぱり違うものになったりします?

宮澤: 基本的には常設で展示している状態で来るんですが、外国に貸し出し用の額がある場合もあります。今回の《ほつれ髪の女》なんかもパルマ国立美術館では、柱のような場所に透明なアクリルの中に入った状態で展示されていますが、ここでは壁面が赤で直接の背景が金だったでしょ。だから全然違う展示になっています。この作品に関して言えば、サイズの小ささを感じさせないような工夫もしました。ただ、じっと見ていると絵に引き込まれていくような力がありますから、それほど小ささを感じさせないんですけどね。

廣川: 私もそう思いました。それとすごく立体感がありますよね。今にも動き出しそうな、大げさに言うとしゃべりだしそうな感じすらします。今回のコラボレーションにあたって、この作品の印刷物はそれこそ毎日見ていたんですが、実際に見ると小ささにも驚きましたが、その圧倒的な存在感を感じましたね。特に表情の描写に集中して描かれた感じが伝わってきました。

高山: タイトルは《ほつれ髪の女》ですが、髪の毛は後から付け加えられたんじゃないかという説もあるんです。だからダ・ヴィンチが描いたのは顔のパーツだけじゃないかと。それぐらい表情が印象的ですよね。

廣川: コラボ作品の製作にあたって私なりにいろいろとリサーチする中で、ダ・ヴィンチが描いたと言われている作品をずっと眺めているうちに、多分これは本当にダ・ヴィンチが描いたなって思う瞬間があったんです。それは対象物の"角度"へのこだわりを発見したときなんですね。微妙な角度への徹底したこだわりが、他の絵にはない存在感を与えている気がするんです。《ほつれ髪の女》も女性の顔の角度にものすごくこだわっているからこそ、これだけ印象的で存在感のある作品になっているんじゃないかなと。

高山: なるほど、それは興味深い法則ですね。今回はダ・ヴィンチが求めていた"美の理想"というテーマもありますが、これに関しては廣川さんはどのようにお考えですか?

廣川: やはり時間をかけて積み重なって得られる美しさを表現していたのかなと思います。外から見える表層的なものではなくて、どちらかというと内面からにじみ出てくる美しさ。その美しさを絵という二次元のメディアに定着させたのではないでしょうか。

宮澤: それってまさに今回の展覧会のテーマでもあるんですよ。会場内にダ・ヴィンチが遺した言葉をいくつかピックアップして展示したんですが、その中にいまおっしゃった内容の言葉が登場します。

廣川: あとはやっぱり母性愛を感じましたね。これはおそらくご覧になった方はみなさん感じられたんじゃないでしょうか。母性愛や慈愛、そういった女性の内側から出てくる感情を表現していると思いました。これは私たちが発表した今年の秋冬コレクションでも表現しようとしたことなんです。

宮澤: 今回のオリジナルグラフィックスですが、これはどういうところからイメージされたんですか?

廣川: そのコレクションでも用いたテーマなんですが"Geodo(ジオード)"という結晶の洞窟です。石が長年の時を積み重ねることで層のように結晶化する、その結晶の内側に人間が包まれている感じです。それはまるで母親の胎内のような空間で、その中で美が成長していく。それがダ・ヴィンチの作品や美のイメージに近いんじゃないかと思いました。

福井: "内側に成長する美"と廣川は表現しましたが、それは単純に時が経てばいいというものではなくて、ある一定の条件がちゃんとそろわないと駄目なんです。理想的な環境の中でなおかつ長い時間を重ねないと生まれない。

高山: SOMARTAさんの作品は大好きなので、これまでもコレクションをずっと拝見してきて、自然界のさまざまなものからインスパイアされてデザインを手がけてこられた廣川さんと、絵を描くだけじゃなくて、多方面にわたって研究し、真理を追究していたダ・ヴィンチとは何か共通したものを感じられるなと思っていて、本当に私の直感なんですけれど(笑)、素敵なコラボレーションになると思ってご相談させていただいたんですよね。

宮澤: 最初このオリジナルグラフィックスを拝見したときに、今のような説明を聞かなくても直感的にかっこいいなって思いました。原作がわかるように原形をとどめていながら、まったく別の作品と言っていい魅力があるところがすごい。

廣川: いつも自分の作品がどう思われるのかどきどきしちゃうんですけど(笑)、直感的にそう言っていただけるのが一番嬉しいです。

中根: 僕はトートバッグ買いましたっ(笑)。グラフィックはもちろんプリントもとても美しいと思ったんですが、出来上がりを想定して色数を減らしたり工夫された部分ってあるんじゃないですか?

福井: ありますね。女性の顔の周りの色味を派手にすると、華やかさは増すんですが、はかなさが表現できないですし、頬の陰影も原画ではここまで黒くないんですが、グラフィックとしての美しさを引き出すためには絶対必要でした。そのあたりはいろいろ試行錯誤しました。

高山: 今回グッズの売上げが非常にいいので、それが素晴らしい作品だということの証明にもなっていると思います。Tシャツも再入荷の繰り返しですから(笑)。こういう風に原画からデザインを起こしてグッズに展開するのは著作権の関係で難しい場合も多いのですが、今回はそのあたりもクリアできましたし本当に大成功だと思います。

廣川: ダ・ヴィンチが遺した500年前の作品と現代の私たちとのコラボレーションですよね。ダ・ヴィンチにも見てもらいたいです。こうやってクリエイターと一緒にグッズを作るような動きを積極的にやっていらっしゃるのは素敵ですね。

高山: 美術館に行く人口は増えていると言いつつも、他の業界・業種から比べるとまだまだ一部の人たちのものだと思うんですね。ですから、いろんな業界の方と一緒にコラボレーションを推進していくことは、戦略として間違っていないんじゃないかと思います。もちろん、誰とでもいいと言うわけではありませんので、そこが難しいところなんですが。

廣川: 私たちも今回のコラボを通していろいろなことを考えるきっかけになりましたし、ダ・ヴィンチのこともさらに深く知る機会になって楽しかったです。

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