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今月のゲスト:浜崎貴司さん@ブリューゲル版画の世界


ID_038: 浜崎貴司さん(ミュージシャン)
日 時: 2010年8月6日(金)
参加者: ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世)
廣川暁生(Bunkamuraザ・ミュージアム チーフキュレーター)

PROFILE

浜崎貴司(ミュージシャン)
1965年6月11日生まれ。栃木県宇都宮市出身。
1990年、 FLYING KIDSでデビュー。スマッシュヒットを連発するも、1998年2月12日に解散。
1998年12月にはソロ活動開始。ソロアーティストとしてコンスタントに作品をリリースしながら、多彩なアーティストとのコラボレーションも展開。
2007年8月、約9年の歳月を経て、RISING SUN ROCK FESTIVALにてFLYING KIDS再集結。
2008年には、ソロデビュー10周年、そしてFLYING KIDS結成20周年を迎え、更なる新しい歌との出会いを目指したライブイベント「浜崎貴司ソロデビュー10周年記念=GACHI(ガチ)10番勝負=」を開催。
ソロ活動と並行して、FLYING KIDS約10年ぶりとなるアルバム「エヴォリューション」を2009年9月23日リリース。
2010年9月29日 ソロ作品としては約6年ぶりとなるニューアルバム「NAKED」を発売。
公式HP:http://hamazaki.org/


『漫画家・ブリューゲル』


高山: 今回の『ブリューゲル版画の世界』、ご覧いただいていかがでしたでしょうか。

浜崎: ブリューゲルの版画作品からは躍動感とか生命力とか、いろんな要素を受け取ることが出来るんですが、そういうものをすべて含めた“ざわつき感”が面白かったですね。例えば、農夫がどこかこっけいな姿で水を飲んでいる場面とか、大きな魚の腹の中に小さな魚がたくさん入っていて膨らんでいる様子とか、それぞれのイメージから伝わってくるものにものすごいパワーがあるんですよね。ブリューゲル以外の画家の作品も結構緻密に描かれていて美しいものもあるんだけれど、やっぱりブリューゲル作品のパンチ力に引き込まれました。

廣川: ブリューゲル作品が持つ圧倒的な力強さは当時からも評判だったんです。色彩のない版画というシンプルな表現方法だからこそ、ひょっとしたら彼の描いた油彩画よりも強烈にイメージが伝わってくる部分があるかもしれないですね。

浜崎: 今回の展示を見たのは今日が2回目で、最初は知り合いに誘われて見たんですけど、その時は普通に油彩画だと思っていたんですね。だから会場に入って風景の版画が続いた時はちょっと戸惑いました(笑)。でも第二章に入って、聖書や宗教的な主題を扱った作品では、人間や怪物が入り混じっていたり、さまざまなメッセージが含まれていたり、ブリューゲル的世界が登場したので、そのあたりからグルーブに乗れた感じがありました(笑)。個人的には、どの作品もどこか漫画のように見えるんですよね。多分、当時の“コミック”だったんじゃないかっていう気がするんですけど。

廣川: 確かにそういう側面はあったと思います。流通経路も絵画とは違って非常に広く流布していたものなので、いろんな人が今のコミックを読むように楽しんでいたはずです。実際、ベルギーは漫画の歴史が長くて、今でも漫画大国として知られているんですよ。どこかパロディーのような表現もお国柄ですね。

浜崎: なるほど。そうすると、やっぱり現代の漫画の礎になっている部分もあるんでしょうね。七つの罪源をテーマにしたシリーズも主題としては重いんですが、どこかコミカルな雰囲気とか諧謔性とか、非常に漫画的だと思うんですよね。最近の日本の漫画で三浦健太郎さんの『ベルセルク』という作品があって、すごく好きで全巻持っているんですが(笑)、この中にもブリューゲルの世界のような描写が登場するんですよ。実際、ブリューゲルを意識して描かれたかどうかはわからないんですが。だから、漫画の世界でも国を越えていろんな人に影響を与えているのかもしれませんね。

高山: やはり漫画とは深い関わりがあるのかもしれません。浜崎さんも東京学芸大学を卒業されていて、イラストを描いていらっしゃるんですよね。

浜崎: たまに描きますね。ファンクラブの会報で連載をやったこともあります。父が栃木県の県庁の職員だったので、昔はよく県立美術館のチケットをくれたんですよ。それはもらうと必ず観に行っていました。そういうベースがある中で、小さい頃から手塚治虫さんや水島新司さんなんかの漫画をよく読んでいて、どちらかというと漫画から絵に入ったタイプなんですよね。画家ではイギリス人のデヴィッド・ホックニーなんかが好きなんですが、彼の作品もどこか漫画みたいでかっこいいと思っちゃうんですよ。今回のブリューゲル展は、印象派の絵画を観るような感じとはちょっと違う、どこか懐かしい感覚を思い起こさせてくれる気がします。そうそう、俺、こういうのが好きなんだよ、みたいな(笑)。それにしても、こういう作家と作品を紹介する美術館も珍しいんじゃないですか(笑)。

廣川: ザ・ミュージアムでは過去にもエッシャーやルドンのような版画作品を紹介していますので、今回も版画シリーズの一環です。中でも今回のブリューゲルは16世紀の画家ということで、前述の二人よりもさらに時代はさかのぼるんですが、全く古さを感じさせませんよね。

浜崎: 日本でいうと戦国時代とか室町時代あたりだと思いますけど、今見ても非常に斬新ですよね。表現もそうですけど、人間の欲望の抑制や戒めみたいなテーマも興味深い。
例えば今日、Bunkamuraに来るまでのバスの中での出来事なんですけど、走行中に入り口扉の前で夢中になって話し込んでいる若い女の子たちがいたんですよ。最近のバスってあまり扉に近づくと危険なんでブザーが鳴るんですね。さらに社内アナウンスまでされているんだけど、彼女たちはなかなか気づかない(笑)。やがて気づいてドアから離れるんだけど、またちょっと時間が経つと知らないうちに扉に近づいてしまってブザーが鳴る。それを3回繰り返したんです(笑)。で、そういう出来事の後に、渋谷に着いて、駅からBunkamuraまで歩いていると、本当にいろんな建物があって、人がたくさんいて、なぜかブリューゲルの世界が目の前に広がっているような錯覚に陥ってしまって(笑)。当時も今も実はそんなに変わらないんじゃないかって(笑)。

中根: 特に渋谷にはそういうある種の怪しさがあるかもしれませんね(笑)。ブリューゲルの作品は見た目にはとっつきやすいんですが、結構そういう哲学的なテーマも多いですよね。それが面白い。ただイメージを楽しむこともできるし、思い切り深読みすることもできる。

高山: ですから今回は非常に幅広い年齢層の方がそれぞれに楽しんでくださっているんです。また、作品数が多いということもあるかもしれませんが、会場内での滞在時間も通常の展覧会の3倍ぐらいの時間なんですよ。

浜崎: 版画ということでいうと、浮世絵との共通点もあるんじゃないかと思うんですが、そのあたりはどうなんですか?北斎漫画にも擬人化されたキャラクターなんかが登場しますよね。庶民のための作品という立ち位置も似ているし。

廣川: それもあると思いますね。浮世絵と同じように、版元さんみたいな人がいて、当時の流行とか風俗を意識してブリューゲルに下絵を依頼したわけです。都市を中心に、みんなが楽しめる娯楽として流通した部分も似ていますね。版画制作に関しては職人技が生かされていますしね。

浜崎: 版画って彫り師が介在しているので、画家が直接制作しているわけじゃないですよね。彫り師も一流の人を使っていたようですけど、それでも出来上がった作品から、躍動感や世界観が画家の個性として表現されているところがすごい。版画だからこそ伝わりやすい部分もあるとは思いますが、そこにはブリューゲルのアーティストとしてのパワーとオリジナリティを感じますね。

海老沢: 特に今回はブリューゲルと同じ時代に活動していた他の画家の絵も展示されていて、比較して見られるのでよくわかりますよね。同じようなテーマで作っていても、あきらかにブリューゲルの作品には圧倒的な存在感があります。

中根: テーマやメッセージを伝えるだけじゃなくて、表現の部分でも妥協していないですよね。前回の風景画の展覧会で並んだ作品は、フレームの外までイメージさせてくれる芸術でしたけれど、ブリューゲルの作品は真逆。フレームの中にさまざまなキャラクターと物語とがこれでもかっていうくらい凝縮されている。

浜崎: ここまで緻密に描き込まれると、ちょっと病気なんじゃないかって思っちゃいますよね(笑)。だから作品を見ていると、ちょっと落ち着かないんです(笑)。どの作品を見ても、心残りがあってその絵の前から去りがたい。まだなんか見逃しているんじゃないかって(笑)。

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