ミュージアム開放宣言ミュージアム・ギャザリング ― ミュージアムに出かけよう。ミュージアムで発見しよう。ミュージアムで楽しもう。

今月のゲスト:こぐれひでこさん @ロートレック・コネクション


ID_034: こぐれひでこさん(イラストレーター&エッセイスト)
日 時: 2009年11月16日(月)
参加者: ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世、
宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム チーフキュレーター)

PROFILE

1947年、埼玉県生まれ。東京学芸大学卒業後、3年間パリに滞在。その後もパリと日本を往復する生活を続ける。帰国後、ファッションハウス「2C.V.」を設立し、ブランドデザイナーとして活躍。‘85年、「流行通信」の連載を機に、イラストレーター&エッセイストに転身。食、旅、暮らしに関わるイラストレーションと文章に定評がある。近著に『お酒とつまみと友達と』(宝島社)、『ごはん日記・春夏編』(早川書房)、『ごはん日記・秋冬編』(早川書房)、『おいしい画帳』(東京書籍)、『味はど~かな?』(東京書籍 )。

http://www.cafeglobe.com/lifestyle/kogure/index.htmlで「ごはん日記」毎日更新中


『ロートレックと仲間たち』


高山:こぐれさんは『cafeglobe.com』の人気コンテンツ『ごはん日記』の中で、『ロートレックの料理法』(※注)のレシピを再現されていましたよね。それを拝見したのがきっかけで、今回の展覧会にコメントを寄せいていただいたり、雑誌『婦人画報』でロートレックの食卓を再現する企画に加わっていただいたのですが、今日はギャザリングのゲストとしてお越しいただきました。『ロートレック・コネクション』いかがでしたでしょうか。

こぐれ: ロートレックの作品って結構たくさん日本にあるんですね。驚きました。

高山: もちろん、ロートレック美術館にも多くの作品があるんですが、今回展示されているポスター作品のほとんどは国内からお借りしました。

こぐれ: そもそもロートレックの作品ってどのくらいの点数があるんですか。

高山: 版画だけでも360点あまりの作品を残しています。商業用ポスターは次から次に制作されましたし、雑誌の表紙なども手がけていましたから数は多いですよね。

宮澤: 確かに36歳で亡くなったことを考えると、作品数は意外と多い感じがしますよね。ただ、下絵みたいなのを描いておいて、その上に乗せる文字だけを変えるようなこともやっていたみたいです。版を逆にしただけで文字を入れた作品もあって、さすがにそれは苦情が出たようですが(笑)。

こぐれ: あっ、だからなのね。おじさんが熊を連れて歩いている、《『昔語り』扉絵》っていう作品がありますよね。私はフランスにいたので、この絵に描かれている場所がわかるんだけど、どうもエッフェル塔の見える方向が違うなと思っていたんですよ。ちょうど逆。この作品は文字はちゃんと読めるから、きっと下絵だけを反転して使ったんでしょうね。すごく不思議に思っていたんだけど、今、謎が解けました(笑)。そういう使い方もしていたってことなんですね。

高山: まさに実際に住んでいらっしゃった方だからこそのご指摘ですねっ。すごい。

こぐれ: ロートレックは好きなんですが、彼の作品をこれだけまとめて見たのは初めてだから面白かったですね。まず素描が上手ですよね。大胆でシンプルな線から技術の高さが伝わってきて感心しました。色使いも綺麗だし、非常に現代的ですよね。

宮澤: 今回は“コレクション”じゃなくて“コネクション”ということで、彼と交友のあった他の作家の作品もたくさん展示しているんですが、ジュール・シェレなんかの作品も単独で見るといいんだけど、隣に並べて見てしまうと普通に見えてしまって...やっぱりロートレックの絵はどこかモダンで全然違いますよね。

こぐれ: ロートレックの絵は、頭の中のイマジネーションだけで描いているんじゃなくて、ちゃんとモデルがいるんですよね。実は私もまず写真を撮って、それを見て描く場合も多いので、そういうところは似ているなって。
私は特に文字を入れたポスターって好きなんですよ。気に入った作品は《ムーラン・ルージュのラ・グリュ》。同じ文字が3回入っているのが効果的ですよね。最初のMを大きく描いていて非常にインパクトがあるし、それでいて全体のバランスもいい。後、《シンプソンのチェーン》もかわいい。自転車が描かれていて、トーンも明るめで、ロートレックじゃないみたいだけれど、ちょっとテイストが違って面白いですよね。

宮澤: ロートレックの作品の文字って活字じゃなくてすべて手描きなんですよね。切り文字のシールのような便利なものはこの時代になかったとしても、定規のような道具を使ってきれいに描くことも出来たと思うんですが、それはやってないんですよね。さすがに画家の仕事じゃないと思ったんでしょうか。

こぐれ: 確かにシェレも手描きでやっていますよね。だからこの時代の特徴なのかもしれませんね。こういうポスターのような複製品って、一点ものじゃないところが好きなんですよ。ブランドが嫌いなのかな(笑)。今回のポスタービジュアルになっている《歓楽の女王》にしても、彼の友人でヴィクトル・ジョズという作家の小説の宣伝のために描かれたものですよね。何か大切にしまわれるんじゃなくて、たくさんの人に見られることを目的としているっていう、そういう開かれた感じがいいんですよね。

中根: ポスター作品ってこの時代にリアルタイムで評価されていたんですか?今見ても構図や色使いが斬新に感じられますから、逆に大衆には好まれていたけれど、芸術としては認められていなかったってことはなかったのかなと。

宮澤: ポスターに限らず、本の装丁とか陶芸とか、油絵や彫刻じゃないマイナーアートの作品が、前衛美術として持ち上げられ始めた時代だったんだよね。ロートレックはブリュッセルでしょっちゅう展示しているでしょ。ブリュッセルはポスターと油絵を並べて展示するような、前衛的なアートを受け入れる文化があったんですね。それがだんだんと保守的だったパリにも流れが移っていったってことなんでしょうね。

こぐれ: 今回は“コネクション”ということで、ロートレックとつながりのある人や作品が見えたところも楽しかったですね。彼とゴッホが友達だったっていうのも知らなかったし、ゴッホを通してゴーギャンと出会っていたというのも驚き。ゴーギャンとは性格が合わない感じがするけど(笑)。快楽の向かう方向が違う感じ(笑)。
他にもいろんな人がいたみたいだけれど、モンマルトルにいた画家の中には結構お金持ちの人も多そうですよね。ドガも銀行家の息子でしょ。貧乏な人もいたんでしょうけど、ロートレックは貴族出身だし、その中でも特に裕福だったのかしら。お母さんからも潤沢にお金が送られてきていたような気がするし。

宮澤: 現代だと、例えばポスターを描いていて芸術家になれなかったとしても、商業美術の就職先はありますよね。ところが、この時代は芸術家を目指すと言うと、相当リスクが高いから、ある程度お金のある家じゃないと許してもらえない、みたいなところはあったんじゃないでしょうか。そうすると、彼の家は貴族だったからまったく問題なかったんでしょうね。

海老沢: お金持ちと貧乏の人の差が極端だったのかもしれませんね。同じモンマルトルにいても、モディリアーニなんかは貧困にあえいでいたわけですから。そういう意味では裕福だったと思います。

こぐれ: そういえば、ロートレックもルノワールもヴァラドンと恋愛関係にあったのは知りませんでした。これも驚きました。ヴァラドンが描いた《自画像》は50歳の頃だから、若い頃はもっときれいだったんでしょうね(笑)。彼女が最初に知り合ったのがロートレックの方で、彼はヴァラドンの絵の才能を見出したんですよね。これがルノワールだったらプライドが高いから、いくらヴァラドンがいい絵を描いていても、他人を認めなさそうとか思っちゃいました(笑)。

※注:画家のロートレックが実際に作った料理の数々を、友人のモーリス・ジョワイヤンがまとめたレシピ本。

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