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坂本美雨さん @20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代


ID_031: 坂本美雨さん(ミュージシャン)
日 時: 2009年1月13日(火)
参加者: ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

坂本美雨(ミュージシャン)
5月生まれ。9歳の時、家族でニューヨークに移住。
97年1月、Ryuichi Sakamoto featuring Sister M名義でデビュー。
99年、本名で本格的に音楽活動を開始。その後、映画の主題歌、フルアルバムのリリースなどの音楽活動に加え、詩やエッセイ、 ラジオのナビゲーター、ナレーション、ジュエリー・ブランド「aquadrops」のプロデュースなど幅広い分野で活躍中。
2008年11月にリリースしたアルバム「Zoy」の中の「Libera in sleep」が、Bunkamuraザ・ミュージアム20周年記念企画展「20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代」展覧会イメージソングに決定。

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『ピカソのチカラ、クレーのリズム』


高山:今回は展覧会のイメージソングとして、「Libera in Sleep」という本当に素敵な曲を提供してくださってありがとうございます。展覧会はいかがでしたでしょうか。

坂本: 私はクレーが大好きですし、ピカソの作品にも非常に力強いものを感じたのですが、今回はそれぞれの作品はもちろん、この時代の流れや空気感を見せていただいた気がして非常に楽しかったです。展覧会のタイトルにあるピカソやクレーの作品だけに焦点が当たっているわけではなくて、彼らの創作活動に影響を受けて、いろんな人が出てきたり、いろんなことが起こったり、そういう時代が生み出したカルチャーが浮かび上がってくる感じがしてすごく刺激的でした。多分、サロンのような場所に集まったり、お互いのアトリエを行き来したりしていたんだと思いますが、そういうのを想像すると同じアーティストとして親しみも沸きますね。

高山: ちょうど20世紀前半に活躍した作家をセレクトして展示しているんですが、《3匹の猫》を描いたフランツ・マルクや戦争の悲惨さを描いたマックス・ベックマンなどは、日本ではあまり見るチャンスがない作家なので、貴重だと思います。

坂本: 展示されている作家たちは、世界大戦の起こった1914年前後を生き抜いた人たちだから、みんなそれぞれの立場で戦争を目の当たりにしていて、それが作品にも反映されていると思いました。芸術家たちにとっても、自分なりに絵を描く意味を問い続けながら創作活動を行わなければならない大変な時代だったと思いますが、だからといって戦争の悲惨を描くだけでなく、カラフルなものや明るいものが多かったのが素晴らしいですよね。

高山: まさに今回の展覧会のもうひとつのテーマが“戦争”なんですよね。この美術館自体が戦後ドイツの文化的復興の象徴として立てられた美術館ですから、結果的に戦争を体験した作家の作品も多くセレクトされています。でも、おっしゃる通り、戦争の悲惨さを訴えるものだけではなくて、次の時代につながっていくような作品もたくさん含まれています。

中根: 会場の途中に美術館についての映像がありましたけれど、ちょうど美術館の改修時期に重なったこともあって、今回は特に貴重な作品が借りられたようですね。

高山: この美術館の作品をこれだけの規模で大々的に紹介するのは、世界でも初めてだと思います。中でも厳選されたクレーの27作品は見応えがありますし、この美術館のお宝の一点、ピカソの《鏡の前の女》は日本初公開作品でもあります。

坂本:私はやっぱり最後のクレーの部屋が印象的でした。クレーって作品が小さいですよね。チュニジアに行ってから色彩に目覚めたみたいですけど、そこで大きく描かなかったのが面白いなと。私だったらカラフルで大きな作品をどーんと描いちゃいそうなんですけど(笑)。

高山: 今回はピカソの大きな作品とも比較しやすいので、さらにそう見えますよね(笑)。ただ、チュニジアにいってから色彩に目覚めたというのは、クレーが計算した上での発言じゃないかいう説もありまして(笑)、クレーは非常に戦略的な一面を持っている画家で、そういう風に言った方が自分の作品の見え方が後々変わって見えるだろうと考えたんじゃないかと。クレーの部屋の最初に飾ってある2点。ちょうどチュニジアに行く前と後の作品なんですが、行く前の作品にもかなり色彩が使われているんですよね(笑)。

坂本: そうだったんですね(笑)。今回音声ガイドを利用させていただいたんですが、クレーの《宝物》に描かれているハートの形が逆さまになっていて、音声ガイドだと、これは死後の世界を表しているんじゃないかという説明がありましたけれど、ひょっとしたら深読みさせているだけなのかもしれませんね(笑)。でも、そうやっていろいろな受け取り方が出来るというのもいいですね。他にもクレーの作品はタイトルも面白いし、スケッチのようなラフな作品もあって楽しめました。

高山: 私もクレーが大好きで、どことなく体温が感じられる温かみのある作品を作れる作家だと思っているんですね。それが美雨さんの作られている曲とも共通する部分があるなあと勝手に思っていたんですよ。

坂本: ありがとうございます。確かに明確に説明的に描くんじゃなくて、例えば《矩形と半円》では、周りだけ描いて中をグラデーションにするとか、その辺りのアプローチは、何となく共感できます。どこか人間の体のパーツを感じさせたり、心と体のつながりのようなものが伝わってきたり。中心に心臓があって、そこから血が流れてきて、それが循環している、そんな生命感を感じます。

高山: クレーはもともと音楽家の家に生まれ育ったので、小さい頃からバイオリンを弾いていて、一時期音楽家になるか美術家になるか悩んだこともあるぐらいなんですね。美雨さんは、クレーの作品から、音楽性を感じたりされるのでしょうか?

坂本:そうですね、すごくリズムを大切にしているなって思います。まるで絵の中のストーリーを追うように目が踊る感じです。絵の構図や構成で説明するというよりも、ちゃんとそこにクレーが感じた自分の身体に気持ちのいいリズムが刻まれている。それははっきりと感じますね。

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