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レイチェル・チャンさん@モディリアーニと妻ジャンヌの物語展


ID_022: レイチェル・チャンさん(ラジオDJ / ナレーター)
日 時: 2007年5月22日(火)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、高山典子、海老沢典世)

PROFILE

レイチェル・チャン
幼少期の6年弱アメリカ、ニューヨークで過ごす。
日本にてテレビ局勤務時代にニュースキャスターとして夕方のニュースを担当。
その後、英国へ渡り、NHKおよび民放のロンドン支局制作番組のナレーション、
インタビューをはじめ、通訳、番組リサーチ・コーディネート、翻訳など、活躍は多岐にわたる。
今年1月ロンドンから帰国。現在、J-WAVE「RENDEZ-VOUS」(月~木14:00-16:30)を担当。
http://www.fmbird.com


『真実のラブストーリー』


高山: レイチェルさんはご自身のブログで今回の「モディリアーニと妻ジャンヌの物語展」の感想を書いてくださっていますが、あらためてご感想をお伺いしたいと思います。いかがでしたでしょうか。

レイチェル: 私自身、絵を見たり描いたりするのが好きなので、モディリアーニの絵もよく見ていますが、ジャンヌとの関係までは深く知らなかったので、あらためてこうやって見せられると衝撃的ですよね。展覧会の最後にジャンヌの行く末を暗示したような彼女自身の作品がありますが、あの絵に至るまでにはさまざまな流れがあったんだなって感じました。何か一編の小説を読んでいるような気分になりましたね。

宮澤: 一応、展覧会の名前も“物語展”にしていますので、小説を読むように、映画を見るように、ご覧いただけるとうれしいですね。展示されている作品には習作やデッサンも多いんですけれど、流れがあるので見ていて苦にならないんじゃないかなと思います。

レイチェル: そうですね。また二人の物語という意味では、それぞれの作品を別々に見るのではなく、カップルという視点で眺めたり、実際にカップルで来て見たりすると、絵を描いている、いないに関わらず誰でも共感できる部分があるんじゃないかと思いました。残念ながら最後が悲しい結末になりますが、だからこそ、そこに至るまでの結びつきの深さや濃さに惹きつけられますね。

高山: 今回は本当にご夫婦やカップルで来館してくださっている方が多いんです。そういう方は、カップルならではの視点でご覧になっているのかもしれませんね。

宮澤: 物語としては悲劇なんですが、心中物語のようなものではないんですよね。今回明らかになった事実によると、どちらかというとジャンヌの方がちょっと追い詰められているというか、精神錯乱というか、情緒的に不安定な部分が見えますよね。実話ということも含めて考えると、筋の通ったフィクションとして美しくまとまった悲劇ではなくて、もっとどろどろした面があると思います。

中根: 僕もモディリアーニとジャンヌの関係は映画で見たぐらいの知識しかありませんでしたし、お兄さんの存在がこれだけジャンヌに影響していることも知りませんでした。実際に思っていたより複雑な人間関係や心情が絡んでいたんだなあと。

宮澤: 今回の展覧会でよく聞かれるのが、お兄さんはどんな絵を描いていたんですか?ってことなんですけど、これがよくわからないんですよ。人物よりは風景画を描いていたらしいんだけれど、モディリアーニはほとんど風景を描いていないので、そういう意味ではお兄さんとモディリアーニの共通点はないんだよね。ジャンヌも風景よりは人物を描いているから、やはりモディリアーニと出会ってから彼に影響を受けたのかなと。彼女の作品で鉛筆だけで描いたものは、彼女の技量がよく出ているし、すごく完成度は高いですよね。残念だけれど、お兄さんはそれほど絵の才能はなかったのかもしれない。

高山: ジャンヌはまだ若いので、いろんな人に影響を受けているなという気がするんですが、やはりモディリアーニの影響はかなり感じられますよね。

レイチェル: すごく似ていますよね。10代っていう多感な時期にこれだけいろんな影響を受ける環境下にいて、この10年後に生きていたらどんな絵を描いたんだろうって興味があります。本当に残念に思いますね。

中根: 僕はジャンヌの絵では挿絵《ネール・ドフ著『飢餓と悲嘆の日々』の挿絵のための下絵》がよかったですね。力強い線でありながら女性らしさもあって。現在のイラストレーションに通じるものがあると思いました。

レイチェル: 私は、これは当時の流行りだったんだと思うんですが、ジャンヌの作品で曲線を強調した作品《クローシュ帽の女》が好きですね。個人的にアール・デコが好きなのでとても親しみを覚えました。《ラ・バヤデール》あたりの色使いも面白いと思いました。ただそうやって流れに沿って見ていくと、やっぱり最後に展示されている一連の作品がとても暗示的でショッキングで...。今回の展示は小説のようなラブストーリーというか、私も二人と一緒に旅に連れて行ってもらったような気持ちになりました。

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