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今月のゲスト:若木 信吾さん@「流行するポップ・アート」展


ID_010: 若木 信吾さん(写真家)
日 時: 2004年12月17日(金)
参加者: 宮澤政男(Bunkamuraザ・ミュージアム学芸員)
ギャザリングスタッフ(中根大輔、海老沢典世)

PROFILE

若木 信吾(わかぎ しんご)
写真家。1971年3月26日静岡県浜松市生まれ。
ニューヨーク州ロチェスター工科大学写真課卒業後、The New York Times Magazine, Newsweek, Switch, Elle Japon, HF、relax をはじめ、雑誌・広告・音楽媒体など、幅広い分野で活躍中。

2003年8月 「A DAY IN THE LIFE」ギャラリー360゜
写真集「A DAY IN THE LIFE」ギャラリー360゜
2002年6月 「Now’s the Past」 青山ブックセンター
写真集「Now’s the Past」青山出版社
2001年5月 「Distance」Switch Library
2001年3月 「Double Focus」ギャラリー・ロケット
写真集「Double Focus」マーブル ブックス
2001年3月 「Mike Loves Jenny」オーガニック・デポ
作品集「Mike Loves Jenny」relax library
2001年3月 「T」ギャラリー・トラックス
写真集「T」 Young Tree Press
2001年3月 「young tree」 リトルモアギャラリー
写真集「young tree」リトルモア
1999年9月 「Free for All」 ギャラリー・トラックス
写真集[Free for All] メタローグ
1999年3月 「Takuji」 パルコギャラリー
写真集 [Takuji] 光琳社出版/NAZRAELI PRESS
1997年8月 「Let's go for a drive」 パルコギャラリー
作品集 [Let's go for a drive] 光琳社出版

『ポップ・アートの立ち位置』


海老沢: 今回の「ポップ・アート展」ご覧いただいていかがだったでしょうか?

若木: 僕は71年生まれだし、小さい頃は田舎にいてアートに関する情報量も少なかったから、ポップ・アートっていうものに対してなんかズレがあるんですよね。俺らより上の人、今30代以上の人たちなんかより思い入れは多分少ないですね。ウォーホルのことも好きか嫌いかというと、どちらかというとあまり好きではないんですよ。だけど、今回の展示はウォーホルの作品は少なくて、写真も多かったし、いろんな人たちの作品も結構たくさんあって、逆に入り込みやすかった気がしますね。これもポップ・アートっていうの?みたいなセレクションもあって、面白かったですよ。

宮澤: 基本的には、もともと2002年にポルトガルで行われたポップ・アート展のセレクションそのままだから、普段ならポップ・アートに分類されないものも入っていて、そういう意味でも面白いと思いますよ。

若木: ポップ・アートの枠ってそもそも不透明なんだろうけど、その枠に入れられる時期って、実は短いんじゃないかと思うんですよね。例えば、カタログにはムッシュかまやつさんのコメントが載ってたけれど、ポップって音楽とのつながりもすごく強いと思うんですよ。で、ヒットする曲って、結構勢いとか、思い込みとか、そういうシンプルで強いものが背景にあって生まれるもので、逆に1曲売れた後に、今度は次どうしようって思って、考えすぎたり哲学的なことを歌ったりしちゃうと売れなくなる。結局、個人の思いみたいなものを排除して、聞き手のために強いものを作っていくというのは単純に商業的になっていっちゃうし、アートととして突き詰めていくとポップから外れていっちゃうと思うんですよ。だからポップ性を持った作品を長い期間作り続けるのは相当難しいことだと思うんですよね。

宮澤: だからポップ・アートじゃなくても同じかもしれないけど、画家とかって最初発表したものと同じ事をずっとやってったほうがいいのか、変えてったほうがいいのかっていう問題はあるよね。最初に展示してあったウォーホルのブリロの箱、ああいうのも最初はいいけどあんなものばっかり観ててもね。その前のマルセル・デュシャンも同じで、レディ・メイドの作品を飾るって言うのも、何度やってもインパクトがあるって言うもんじゃないよね。

若木: 作家の作品って最終的には結局美術館に収蔵されて、その時点で古いものとして美術という歴史の一環に入ってしまうだと思うんですが、ポップ・アートというのはその環の中に入っているけど、入っていない、みたいなところがある気がするんですよ。きっと未だにウォーホルのポスターとか売れているはずだし、Tシャツも作られているはずでしょ。そういうところも面白いですよね。

中根: 逆に言うと、日本にはずっとアメリカの文化が入ってきていて、そういうのが生活のベースになってしまっているようなところもあるじゃないですか。洋服を何の違和感も無く着たりしてね。だから、今回会場を歩いていると、すべてが広告っぽく見えたり、感じたりする部分がありましたね。だからポップ・アートと広告の境界って限りなく薄いんだなってあらためて思いました。

宮澤: 広告やってる人の中には、本当はファイン・アートの世界でやりたいけども、食ってかなきゃいけないとかがあって広告やってるっていう人もいるだろうね。だから境目は難しいと思うよね。

若木: (海老沢に対して)女性から見てポップ・アートってどうですか?

海老沢: うーん、きっと男性の方が好きなんだろうなって感じですね。

若木: 僕もそう思った。ポップ・アートというのは基本的に社会的なものだと思うんですよ。その当時の大スターだとか、その当時一番流行った商品だとかを、いかにパーソナライズさせるかという事で作品にしているところもあると思うんですよ。

海老沢: 今回は、うちの美術館には珍しくお客様の男性の比率がすごく高いんです。いつも大体7割強から8割が女性なんですね。今回は4割以上が男性なんです。写真展の時のお客様の層と似ているんです。男の人が一人でじっくり見る、というのがすごく多いんです。アンケートの感想なんかも男性の方が面白かったという意見が多かったですね。

若木: だから逆にさっきのポスターの話じゃないけど、ポスターやTシャツで見慣れたアートを、あらためてキャンバスに描かれた原画で見ると、汚いとかシャープさが足りないとか言う人もいるんじゃないかなと。僕なんかはそこがすごく好きだけど。ウォーホルの作品にしてもそうだと思う。彼の作品の強さっていうのは、結局元の写真の強さがすごい出てると思うんですよ。そういう意味ではウォーホルって写真が上手いなと思います。

中根: そういう視点で見るとポップ・アートもぜんぜん違って見えるでしょうね。実際、蛍光色っぽい色も原画で見るとぜんぜん違うし、ちょっと暗い雰囲気なんかも伝わり方が違いますよね。

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